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プラチナ雑感02〜中国とプラチナ_c0112103_1057574.jpg


中国という国は、古来より度重なる王朝あるいは政権の交代で、紙幣が紙くず同様になる悪夢を幾度も経験してきたがゆえに、中国人民は政府発行の紙幣にあまり信を置いていないとされる。

それがどの程度の不信感となっているのか定かではないけれど、彼らは(その昔は通貨であった)金や銀に対して、ことさら強い欲求を持っているようだ。その証拠に、貴金属の代表ともいえる金の需要を見ると、金自由化以降、中国の世界シェアは、(2014年は減少したとはいえ)20%強まで拡大している。

では、プラチナはどうなのか。これまで中国の人民は金や銀は欲しがってもプラチナには見向きもしなかったとされる。その理由はおそらく二つ。ひとつ目の理由は、見た目は銀と大差ないのに、銀に比べてプラチナの価格は異常に高いこと。ふたつ目の理由は、金や銀と違い、プラチナには通貨としての歴史がないこと、であろう。

しかし、中国におけるプラチナ宝飾需要は、じつは飛び抜けて大きい。なにがキッカケなのかは分からないが、いまでは、「プラチナ雑感01:欧州とプラチナ」で紹介した欧州におけるディーゼルエンジン車の排ガス触媒需要を凌駕する規模にまで拡大している。

というわけで、これからプラチナ需要の動向を見る際は、欧州の景気同様、中国の景気も重要な指標となる。ただし、中国においてもプラチナは投資媒体としては認知されておらず、いまのところ宝飾品としての位置づけにある。とは云っても、アジア中東地域における貴金属の宝飾品は、欧米とは異なり半ば資産としての位置づけにあることは付け加えておきたい。

こうした観点から、中国の景気後退局面、信用リスク増大局面では、プラチナの需要が凹む可能性は高いと見ておいて間違いなさそうだ。折しも、中国は過剰な債務を抱え、上海株式市場が大きな調整局面にあるゆえ、プラチナには現在、下押しのプレッシャーが掛かっている。ニューヨーク先物市場で売り物が膨らんでいる(過去20年でほぼ最高水準まで拡大している)背景の一つとも云えるだろう。しかし、いずれそこは買い戻されることになる。それがいつのことになるかは分からないけれど。

プラチナ雑感01:欧州とプラチナ


画像出典:All About「中国の両替」

# by naomemo | 2015-07-16 11:07 | →はじめての金読本


プラチナ雑感01:欧州とプラチナ_c0112103_11254774.jpg


個人的にプラチナにコツコツ買いを入れているので、ここで欧州とプラチナについてメモして置こうと思う。たまにはこんな話題もいいでしょ。

その前に、ざっくりと全体を押さえておきたい。いまは世界中に緩和マネーが溢れている。しかしその膨大なマネーの運用先となると、そうそうあるものじゃない。いまの欧州には行きにくい。経済全体として見れば最悪期は脱して、そろそろ浮上という段階だが、しかしギリシャ問題が解決せず、ことによればスペイン、イタリアへの飛び火の可能性も否定できない。

新興大国の中国は景気後退のサインが点滅中。しかも、あろうことか上海株式市場が官製バブルの崩壊で、いまは危なっかしくて近寄れない。ロシアにも政治的な理由で近づきにくい。堂々と近づけるのは中国くらいなものである。そこはさすがと感じる。

一方、リーマンショック後に市中のドル流通量を4倍まで膨張させて景気が回復基調にある米国は、緩和の出口に向かおうとしている=引締めに動こうとしていることから、ドルが新興国から米国本国へ里帰り。FRBは金利の引上げに動きたいところだけれど、しかし皮肉なことにドル高が進行したことでグローバル企業の業績が凹んでいる。欧州、中国への影響も無視できない。

緩和マネーで、この二年間で株価が大きく上昇してきた日本も、いまでは上海リスクが気になるところ。

さて、ざっくり全体を俯瞰した上でプラチナを見てみると。

まず、プラチナの市場は、ゴールドの市場の1/20程度に過ぎない。ゴールドも稀少性は高いのだが、プラチナの方が希少性では圧倒的。年間産出量だけを見ても、ゴールドの3000トンに対して、プラチナは200トンにも満たない。じつに微々たるものである。

供給面でのもう一つの特徴は、ゴールドの生産地が世界各地に分散しているのに対し、プラチナは南アがおよそ7割強を占めている。つまりプラチナの供給は、南アという国の情勢に大きく左右される面があるということ。しかも南アの鉱山は、鉱山労働者の賃金上昇圧力と電力供給不安をつねに抱えている。ここで問題が起きると、どのようなことが起きるか想像に難くないだろう。これまでも数年に一度くらいの割合で、この問題が顕在化している。

一方の需要はどうか。最大需要のディーゼルエンジン自動車の排ガス触媒が4割強を占めている。その次が宝飾品で3割強。つまりプラチナの需要は景気に大きく左右されるわけ。通貨としての顔を持つゴールドとは、この点が大きく異なる。そして、最大需要のディーゼルエンジン自動車の排ガス触媒の主要なマーケットといえば、それは欧州なのである。

冒頭に載せた過去10年のプラチナ価格の推移を見てみよう。ちょうど10年前の価格水準が800ドル台、そしてリーマンショック後に急落した際の価格がやはり800ドル台の水準。その後持ち直したものの、リーマンショックが欧州に伝染し南欧の債務不安から景気が冷え込み、ズルズル下げて現在の1000ドル水準に至っている。10年のレンジで見る限り、底値まで200ドル。ここに来て下げ足を速めているのは、ギリシャ問題が長引いているからだ。

つまり欧州から(そしてプラチナから)投機マネーが引いているというのが実情だろう。投機マネーが引いたところが、個人の出番だと思っているわけだ。

あとはEUがギリシャ問題を乗り切るかどうか。個人的には、ギリシャのデフォルト、ユーロ離脱はあり得ると思うのだけれど、EUからの離脱はないと見る。

そう思う理由は二つ。

一つは、最近の欧州には「地中海国境」という防衛安全保障の考え方があるということ。このボーダーが隔てようとしているのは、云うまでもなく欧州と北アフリカ中東地域。そこに降って湧いたのが大量の難民である。ギリシャはその最前線にある。ゆえに仮にユーロからの離脱が起きてもEUからの離脱はないと見る次第。

もう一つは、ギリシャ政府について、これ以上の支援にEUは否定的な姿勢を通しているが、ここに来てどこからともなく「人道的見地」という言葉が聞こえるようになったこと。そうでも言わないことには、ギリシャの銀行に資金を入れることに、国内世論の賛意を得られないということなのではあるまいか。スサノオのような荒くれギリシャだが、人道的見地という方便を使うことで、メルケルもギリシャに支援の手を差し伸べることが可能となる。だからギリシャの破綻、ユーロ離脱はあっても、EU離脱はないと見ているわけ。

以上は、あくまでの個人の見解。明日のことは、誰にも分からない。けれど、ゴールドもプラチナも実物の資産であって、価値が破綻することはない。いつまでも値を崩し続けるとは思いにくいからコツコツ拾っている。1000ドルを割れば800ドルまであると思うけど、その時は大きく拾えば良いだけのこと。だから、5年、10年寝かせても大丈夫な資金を投じている。そうは云っても、たいした金額ではないけれど。

最後に。安倍政権の動きにキナ臭ささ感じている個人としては、貴金属現物への投資は、将来リスクに対する、ささやなかヘッジの意味もある。


欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

チャート出典:kitco

# by naomemo | 2015-07-10 11:43 | →はじめての金読本


時間を味方につけましょう_c0112103_10203183.jpg


これから時折、金取引について実践編の話も混ぜて行こうか思います。ただ最初にひとことお断りしておきます。この「はじめての金読本」は、金をヘッジ資産(=将来の万一に備える保険的な役割をもつ資産)と考える立場に立っています。ですからここで扱うのは現物取引に限り、先物取引は扱いません。先物取引は一般個人向けではないからです。

先物市場は、将来の価格変動リスクをヘッジする(保険をかける)大切な役割を担っています。とはいえ、先物取引が、決済期限のある期間限定の取引であり、投機的な色彩が強いことも否めず、そして業者の強引ともいえる営業手法に疑問もあります。一般個人向けとしては難があります。

先物の短期売買で利鞘を稼ぐ行為は、それを生業(なりわい)とするプロたちに任せておけばよろしい。不用意に足を踏み入れると大きな損失を被りかねませんから、一般個人は敬して遠ざけておくのが賢明でしょう。

それでも、金価格は上がったり下がったりします。金といえど相場商品ですから、価格が変動するリスクと無縁ではありません。投機マネーの動きによって急騰急落する局面も見られます。そんな時に決済期限のある先物取引だと、価格が予想に反した大きな動きをした場合に、安穏としていられなくなります。そうなると本来味方となるべきはずの時間が敵に回ってしまいます。

それでは安心のための金が、不安の種になってしまいます。

それに対して、いつ買っても、いつ売っても、まったくもって自由なのが金現物です。金現物を保有している人には、「決済期限」なるものがありませんから、価格が急騰急落しても、高みの見物でやり過ごしていれば済みます。金現物は紙くずになることはありませんから、将来必要になる時まで気長に保管しておけば良いだけのことです。しかも、10年、20年保有していても、税金がかかることもありません。

一般個人にとっては、時間を味方につけることが何より大切です。金投資は、だれかと勝ち負けを競うような類いのものではありません。時間と争うものでもありません。このことは、けっして忘れないようにしてください。


イラスト:三井孝弘さん



# by naomemo | 2015-06-26 10:28 | →はじめての金読本


欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇_c0112103_941291.jpg


今朝NHKBSを観ていたら、フランス国営放送の番組で、ギリシャの債務問題について、思わず耳が立つようなコメントがあった。発言者の名前はチェックし損ねたけれど、おそらくフランスのアナリストか学者だろうと思う。

うろ覚えなので、その発言を思い出しながら解釈するけれど、つまり、こういうことになる。

ユーロが誕生した1999年から現在まで、ユーロ経済は18%拡大している。それに対して債務問題で叩かれているギリシャはどうかと云えば、ユーロ導入当初は成長したが、リーマンショックを経て、結局プラスマイナス0%に戻ってしまった。現在抱えている債務はギリシャにとっては巨大すぎて、すでに返済能力を超えている。

これは、(ギリシャのように)経済の弱い国が、(ユーロという)強い通貨を持ったことで起きた、必然的な帰結である、ということを意味する。

ECB、IMF、ドイツは現在、ギリシャの債務問題のユーロ圏への波及を回避すべく交渉を重ねている訳だけれど、そもそもの問題がユーロの仕組みにあるのだとすれば、ユーロの仕組みに改変が加えられない限り、回避は不可能で、同様の問題が他の国へ波及せざるを得ないのかも知れない。

ギリシャが立ち直るには、債権団が自らの債権を放棄し(あるいは相当部分をカットし)、そのあとでギリシャはユーロを離脱してドラクマに戻る他なさそうだ。しかし、債権団が債権を放棄することはなく、ギリシャから取れるだけ取ることしか考えてはいないだろう。悲劇的としか云いようが無い。

どうやら通貨は、国あるいは地域の実情にあった強さであることが望ましい、ということになりそうだ。個々の国がそれぞれの実情に合わせて為替政策も打ち出せない現在のユーロシステムは、経済の強いドイツにとっては好都合であっても、(ドイツに比較して)経済の弱いギリシャ、そしてスペイン、さらにイタリアなどの国にとって、負荷が大き過ぎるということだろう。

けっきょく南欧の債務問題は、これからも長く続かざるを得ないのだろう。そしてもうひとつ、通貨発行権は経済の弱い国にとってこそ大切なのだということを、今回のギリシャの事例は教えてくれていると思う。たとえ隣の芝生は青く見えたとしても、けっして自ら手放してはならないものなのだ、と。


欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

画像出典:CNN.co.jp

# by naomemo | 2015-06-24 10:30 | いまを読むノート


欧州雑感06:スペインが熱い_c0112103_10565038.jpg


欧州の内なる移民問題、北アフリカから押し寄せる難民問題について、あれこれ読みつつ感じていることは、このまま行くと、とうの昔に消え去った国境がふたたび復活することになるかも知れないな、ということだ。少なくとも、これまでのようなEU域内における無制限の移動の自由は、いづれ制限されることになりそうな気がする。。。

以上は、すこし前にメモ帳に認めた一文である。これをもう少し掘り下げて、まとめてみようと思っていたのだけれど、そのまま放り出すことにした。その替わりに、今日は、スペインの急進左派ポデモスについて書かれた、とてもシャープな記事を紹介しておこうと思う。上の画像は、The Guardianから拝借したポデモスを率いる党首パブロ・イグレシアス。じつにかっこいい。

「彼は共産党のドクトリンに根付いたクラシックなスペインのインテリ左翼ではない。だが、現代の世界を病ませている原因を明確に指摘し、その終焉を目指す。それは緊縮政策であり、市場主義であり、グローバル資本主義だ。」

「ポデモスは政党設立からわずか4カ月後のEU選でスペインの第4勢力となり、昨年秋には支持率が与党を抜いた。今や11月に行われる総選挙でイグレシアスが首相になる可能性すら囁かれている。」

全文はこちら→ブレイディみかこ「『勝てる左派』と『勝てない左派』」

もし、ポデモスが政権を奪取すると、スペインのユーロ放棄あるいはEU脱退が視野に入って来ざるを得ないだろうね。

欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

画像出典:The Guardian

# by naomemo | 2015-06-04 11:02 | いまを読むノート