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VW不正についての空想


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 20世紀において、自動車メーカーは、走行性能とデザイン性能を競って乗用車を生産して来た。その筋の専門家ではないので、あくまでもザックリとした俯瞰に過ぎないが、大きく的を外してはいないだろうと思う。

 ところが21世紀に入って環境性能と燃費性能の重要度が飛躍的に高まった。その、まさに時代の変わり目に出現したのが、世界初の量産ハイブリッドカー・プリウスだった。プロトタイプの発表が1995年、初代プリウスの発売が1997年。その後ホンダのインサイトが続き、ハイブリッド・カーという名のカテゴリーは、日本の自動車メーカーの十八番となって進化を続けている。

 じつはハイブリッドカーそのものは、欧米自動車メーカーが早くから先行してこれまで何度も取り組んできたものの実現に至らなかっただけに(その歴史は1896年のフェルディナント・ポルシェにまで遡るらしい)、日本に先を越されたことへの焦りは、相当なものだったに違いない。

 その後、トヨタのハイブリッド・システムは進化を続け、今年12月に発売が予定されている第四世代のプリウスは、リッター40キロ走行を達成しているという。まさに驚くべき進化である。。。

 うっかり忘れるところだった。本日の主題はプリウスではなく、VW(フォルクスワーゲン)によるディーゼルエンジン車・排ガス規制不正だった。

 さて、話題はVWに代わるが、同社による不正の第一報に接して最初に浮かんだ疑問は、ドイツ製造業を代表する企業が、いつか露見するに違いない稚拙な不正になぜ手を染めなければならなかったのか、だった。ゴキゲン、ワーゲンなんて、楽しそうじゃんと思っていた矢先だっただけに、ちとビックリ。いろいろ記事を追っているうちにキーワードとして浮かんできたのは、権力の集中(あるいは腐敗)、株主至上主義、短期成果主義、この三つだった。東芝の不正会計でも浮かんだものだった。

 VWが行った不正を、あえて通俗的な比喩を使って表現するなら、常に親から良い成績を期待される子供が、そのプレッシャーから逃れるためにカンニングに走ったようなものだ。

 では、VWが感じていたプレッシャーとは何だったのか。おそらく冒頭のマクラで振った進化するハイブリッド車の存在だったのではないか。クリーンディーゼルと命名して、実際、排ガス抑制で目を見張る進化を遂げてきたとはいえ、20世紀型カテゴリーに属するディーゼルエンジンでは、馬力性能や耐久性能が重要なジャンルでは優位に立てても、環境性能と燃費性能で雌雄が決するジャンルでは、やや不利な戦いを強いられることは否めない。

 そこに危機感が生まれ、生産部門と販売部門へのドライブが横行し、現場は不正に手を染めざるを得なくなった。。。

 もうひとつ気づいたことがある。ニュースによれば、今回の問題でリコール対象となるのは、2009年以降のディーゼル車だという。時あたかも、リーマンショックの影響で金融と経済が疲弊した時期で、トヨタが北米で大規模なリコールと集団訴訟に晒された時期に重なる。ライバルメーカーが前のめりに突っ走る動機の一つになって不思議ではなかったのかも知れない。

 ことの真相はいつか見えてくるのだろうけれど、以上が、現段階での自由勝手気ままな空想である。

 この問題については、清水和夫というモータージャーナリストが「5分でわかるVWの排ガス規制違反問題~清水和夫が真相に迫る」というタイトルの記事を公開している。不正の背景として、米国における低品質の軽油の存在、功を焦ったVW上層部による社内への圧力の存在を指摘していて、なるほどと納得。興味のある向きは、こちらもどうぞ。

 最後にひとつ。ただ、しかし、そうは云っても、新しい時代のトレンドとマスの需要とは共存するのが常なのだと思う。しばらくは熱にうなされたかのごとく、ディーゼル悪玉論が流布されるかもしれないけれど、これでディーゼルエンジンの存在が急速に減少するとは思わない。世の中の現実は、オセロのように、黒と白が簡単に反転したりはしないのだから。

(追記)
 2009年から始まったとされるVW排ガス不正。不正に動いた背景にはさまざまな要因が透けて見えるけれど、(まだ噂の段階だが)結果としてやったことは、コスト削減のため排ガス浄化触媒のプラチナ使用量を半減し、それを隠蔽するためのソフトウエアを使ったのではないか、という説が飛び出して来た。


画像出典:ロイター


by naomemo | 2015-09-25 10:23 | いまを読むノート