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欧州雑感08:国境が復活する気配


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だいたい毎朝4時前に起床して1時間ほどウォーク&ランあるいはウォーク&トレーニング。ここから1日は始まる。しっかり汗を流しシャワーを浴びないと、アタマがはっきりしない体質というか年齢なのだ。それからだいたい1時間ほどBS海外ニュースを観ているのだが、ここ数日前から繰り返し報道されていることが気になっている。

ひとつはフランスにおける酪農家たちのデモンストレーション。隣国ドイツとの境、スペインとの境で、フランス国内に入って来るトラックを停止させて、酪農家たちが荷物検査を行っているのだ。一種の検問である。ニュースだけでは把握し切れないところがあるけれど、どうやらこんなことらしい。ドイツあるいはスペインから入ってくる安価な製品によって、同国の酪農業が半端ない痛手を被っている。さらに米国主導(欧州追随)によるプーチン・ロシアへの経済制裁の長期化によって、フランスの酪農家は上得意先を失い瀕死の状態にある。この二つが相まって、鬱憤が溜まりに溜まり、怒りのエネルギーが沸騰しているかのようだ。

もうひとつは英国の移民受け入れ拒否。フランスのカレと英国のドーバーを海底で結ぶトンネルを英仏海峡トンネルというが、(BBCはユーロトンネルと呼んでいるが)、カレー側のトンネル入口にトラックが長蛇の列をなしている。どういうことかといえば、英国に憧れてカレからドーバーを目指す大勢の移民を、英国サイドが水際で塞き止めているわけだ。ただでさえ同国は移民対策に窮しており、さらなる移民の流入はご免被りたいということだろう。テロの脅威、差別や格差などがコントロール不能になりかねず、広い意味での英国社会の安定がこれ以上損なわれることを防ごうとしているわけだ。

この二つに共通して登場しているのが、ボーダーすなわち国境である。

思い起こせば戦後の欧州は、第一次大戦、第二次大戦のような大きな戦争を二度と起こさないという強い思いを持って再出発。戦争資源(石炭や鉄鋼など)の共同管理を行ない、域内の関税を撤廃し、人の移動を自由にし、ついには通貨もひとつにして来た(英国はポンドを維持しているが)。欧州全土をひとつの共同体にまとめ上げればケンカも起こらないだろう、と考えたわけだ。そして、現在のEUがある。

ボーダー=国境は無くなり、モノもヒトも自由に行き来できるようになったわけだが、どうもここに来て雲行きが怪しくなり始めた。これまで東欧および中東からの移民が、高齢化対策、労働力確保、生産性向上といった課題解決策だった時代から、国内の格差・差別を助長し、挙げ句の果てにテロの温床にもなる時代へ移行しつつあるかに見える。

結果的には否決されたがスコットランドには英国からの独立を望む国民が多くいる。英国のキャメロン首相は同国のEU離脱を国民投票にかけるらしい。バルセロナを抱えるカタルーニャはスペインからの独立を望んでいる。そのスペインではドイツ主導のEUが押し付ける緊縮策に反対する勢力が台頭している。

ボーダーレスを求めるグローバリスムとボーダーを復活させたい愛国主義。この対立の構図が、欧州でますます際立ち始めているようだ。


欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

by naomemo | 2015-07-29 15:06 | いまを読むノート