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欧州雑感02:統合か愛国か


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理屈では右へ行くのが正しいと分かっているのに、結果として左へ向かってしまうなんてことがある。なんとも理解しがたく歯がゆいことではあるけれど、夫婦のあいだでも、親子のあいだでも、会社組織においても、はては国と国の関係でも起こりうることだ、これは。

欧州のことが気になっている。ウクライナ問題、ギリシャ問題、「イスラーム国」問題、内なる移民の問題、そして域内の景気後退と、問題山積である。これからどうなるのだろう。

欧州が第二次大戦後に歩んできた道筋にヒントがあるかも知れない。

第一次大戦、第二次大戦のような大きな戦争を二度と起こさない。戦後の欧州はそんな強い思いから再出発したようだ。そして戦争資源(石炭や鉄鋼など)の共同管理を行ない、域内の関税を撤廃し、人の移動を自由にし、ついには通貨もひとつにして来た。欧州全土をひとつの共同体にまとめ上げればケンカも起こらないだろう、と考えたわけだ。たぶん。

二度に渡る大きな戦争で欧州全域が戦場となり、数え切れない人が亡くなったわけだから、誰よりも平和と安全を強く願う気持ちは理解できる(つもりである)。けれど、幸か不幸か、人間という生き物はなかなか理想どおりには動かないようだ。いがみ合いも起きるし、ケンカも起きる。

人は自分が育った国を簡単には離れられない。生まれた時から使って来た母国語を捨て去ることなどできるわけもない。そもそも身体のなかを流れる血は入れ替えがきかない。欧州連合という共同体の大きな傘が出来て一時はうまく行くかに思われたのだけれど、それが、リーマンショックに始まる金融危機でいかにも脆いものだったことが露呈したわけだ。寄り合い所帯だから、金融対策・経済対策ひとつまとめるのに、とても時間がかかる。

挙げ句に浮かび上がって来たことは、それぞれの国で生まれ、育ち、学び、働き、愛し合い、憎しみあい、涙し、笑い、生活する人々の姿だった。共同体の理想の目の前に、突然のごとく「愛国心」という名のゴジラが出現してきたわけだ。これは新聞やテレビの報道からも感じていたが、欧州の数々の映画を観てきた率直な感想である。映画は世相を映す鏡の役割を果たしてくれるのだ。

いまウクライナで起きている問題も、ギリシャ離脱を巡る問題も、欧州の立ち位置から突き詰めれば統合と愛国のせめぎ合いと云って良いのだろう。もしもドイツがギリシャを共同体から離脱させるようなことになれば、そもそもの共同体の理想あるいは初期目的に亀裂が生じることになる。結果、愛国主義がさらに広がり勢いを持つことになりそうな気がする。そこを見切った積もりになってギリシャは横着をしているのだろうが、さてどうなるだろう。


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欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

by naomemo | 2015-02-10 14:14 | いまを読むノート