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火傷するほど熱いマレイ・ペライア

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その昔、バッハの鍵盤曲といえば、宗教曲を除いて、チェンバロで弾くものと相場は決まっていたと思う。その当然あってしかるべきアプローチあるいはルールを破った確信犯は、他でもないグレン・グールドであろう。1955年のデビュー・アルバムであるバッハのゴルトベルク変奏曲は、バッハ演奏を根底から覆すほど革命的だったに違いない。その彼が、晩年、最後にレコーディングしたのも、ゴルトベルク変奏曲である。ゴルトベルクに始まりゴルトベルクに終わった人生である。

僕は、最後に録音したゴルトベルクをときどき聴く。55年のデビュー版は、CDショップでよく手に取るんだけど、なぜかいまだに買ってない。神聖なものに触れるような感覚があって、いつも敬して遠ざけてしまうのだ。

今回取り上げるのは、おなじゴルトベルグ変奏曲なんだけど、演奏家はグールドじゃない。平均律もゴルトベルクもグールド以外じゃ聴けなくなっていたのに、5、6年前、たまたま銀座ヤマノ楽器でマレイ・ペライアを試聴して、衝撃を受けたのだ。衝撃なんて、大げさだね、20年にわたるグールドの呪縛がようやく解けた瞬間だった。以来、ときどき通勤途上に聴いている。ペライアって大人しい雰囲気を醸し出しているけど、その演奏は火傷するほど熱い。

by naomemo | 2010-05-31 09:01