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米国アカデミー賞に外国語映画賞という賞がある。2008年に「おくりびと」が受賞して日本でも俄然注目されるようになった賞である。その翌年にはアルゼンチンの「瞳の奥の秘密」が受賞。この作品はじつに質の高いエンターテイメントで、ひどく気に入り、もういちど大きなスクリーンで観てみたいなあと思っているほどだ。オープニングの揺らぎがなんとも美しい。

そして昨年2011年に受賞したのがイランの「別離」。アカデミー賞の授賞式ダイジェストをテレビで観ていて、思わず「おっ」と声が出た。なにしろハリウッドといえば、ユダヤ系の領分である。そこでユダヤからすれば天敵のイラン映画が大賞を受賞することになるとは想像もしていなかったからだ。

しばらくして渋谷ルシネマが同監督・脚本ファルファディの前作「浜辺で消えた彼女」を取り上げたので、さっそく観た。感想は以前書いたとおり。

そして今週おなじ渋谷ルシネマで「別離」を観て来た。前作を一回りも二回りも凌ぐ傑作で、緊張の2時間だった。テーマは、ファルファディお得意の「嘘と秘密」。

登場する大人たちが、それぞれ周囲への配慮から善かれと思って隠した秘密、善かれと思ってついた嘘が、やがて事態を悪くしてしまう。そんな人生の皮肉と悲しみの物語が、老人の介護、夫婦の不和、信仰心、裕福と貧困といった、いつかどこかで誰もが向かい合うモチーフを折り込みながら展開していく。

恐るべし、ファルファディ。

ついでに言うと、この「別離」、ベルリン映画祭で金熊賞を受賞しているが、男性キャスト全員が男優賞、女性キャスト全員が女優賞を受賞している。こんなこと、映画史上初めての快挙じゃないかな。しかも、この作品、イランとは天敵の国イスラエルで大ヒットしたんだってさ。国境も、宗教も、民族も超えた作品ってことでもあるね。

良かったです。最後、泣いたなあ。。。




by naomemo | 2012-05-24 16:07 | シネマパラダイス

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人間は嘘をつく生きものである。いや、動物だって、植物だって、擬態という立派な嘘をつくから、生きとし生きるもの、すべて嘘をつく、と言っても良さそうだ。何のために嘘をつくのか?もちろん、生きるために。

生きる目的以外に嘘をつくのは、おそらく人間だけではないだろうか。人間は悪意に満ちた嘘もつけば我が身を守るための嘘もつく。あるいは相手を籠絡するための嘘もつけば人間関係を壊さないための嘘もつく。

人間がつく嘘は、じつにバラエティ豊かである。嘘の役割は果てしなく広いのだ。そして、嘘が嘘のままにきちんと機能しているうちは、おそらく平和が保たれることになるのだろう。逆にいえば、ひとたび嘘が破綻すると、たちどころに大きな波紋がひろがることになる。

イラン映画「彼女が消えた浜辺」は、そうした「嘘の破綻」をテーマにした作品だった。

ほんとうなら幸福な結果を約束してくれるはずだったセピデー(ゴルシフテ・ファラハニ)の小さな嘘が、友人家族たちとヴァカンスにやってきた避暑地の浜辺で、唐突に破綻してしまう。その途端、友人たちは自己保身に走る。私もそうじゃないかと思ってたのよ、と。

セピデーの友人エリが浜辺で消えたことを巡って、セピデーは次第に自分を追い詰めて行くことになる。夫からも友人たちからも追い詰められて行くことになる。詳しいことは書けないけれど、とてもとても切ない物語なのだった。切ない気分でいっぱいになって、渋谷ルシネマを後にした。

それにしてもこの作品に登場する女たちの、なんと魅力的なことか。じつに美しい。それだけでも一見の価値あり。

ちなみに監督アスガー・ファルハディは本作でベルリン映画祭銀熊賞を受賞。来月公開される次回作の「別離」では、ベルリン映画祭金熊賞、今年の米アカデミー賞外国語映画賞を受賞している。注目の監督だね。




by naomemo | 2012-03-23 17:56 | シネマパラダイス