無私の精神




 自己中心的な考え方や言動が広がるなか、世の中に役立つ研究を続け、実績を上げて来られた方がサラリと云い放った。

 「私自身えらいものを考えたり、難しいことをやったりしたわけでなくて、すべて微生物がやっている仕事を勉強させて頂いたりしながら、今日まで来ているとゆう風に思います。」

 今年のノーベル生理学・医学賞を受賞された北里大学の大村智特別名誉教授の受賞コメントの一節である。この言葉が聞こえて来て、思わず耳が立ち、爽やかな気分にもなった。

 日本人には、この「無私の精神」ってやつが、とてもよく似合うと思う。


# by naomemo | 2015-10-06 15:53 | いまを読むノート

VW不正についての空想


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 20世紀において、自動車メーカーは、走行性能とデザイン性能を競って乗用車を生産して来た。その筋の専門家ではないので、あくまでもザックリとした俯瞰に過ぎないが、大きく的を外してはいないだろうと思う。

 ところが21世紀に入って環境性能と燃費性能の重要度が飛躍的に高まった。その、まさに時代の変わり目に出現したのが、世界初の量産ハイブリッドカー・プリウスだった。プロトタイプの発表が1995年、初代プリウスの発売が1997年。その後ホンダのインサイトが続き、ハイブリッド・カーという名のカテゴリーは、日本の自動車メーカーの十八番となって進化を続けている。

 じつはハイブリッドカーそのものは、欧米自動車メーカーが早くから先行してこれまで何度も取り組んできたものの実現に至らなかっただけに(その歴史は1896年のフェルディナント・ポルシェにまで遡るらしい)、日本に先を越されたことへの焦りは、相当なものだったに違いない。

 その後、トヨタのハイブリッド・システムは進化を続け、今年12月に発売が予定されている第四世代のプリウスは、リッター40キロ走行を達成しているという。まさに驚くべき進化である。。。

 うっかり忘れるところだった。本日の主題はプリウスではなく、VW(フォルクスワーゲン)によるディーゼルエンジン車・排ガス規制不正だった。

 さて、話題はVWに代わるが、同社による不正の第一報に接して最初に浮かんだ疑問は、ドイツ製造業を代表する企業が、いつか露見するに違いない稚拙な不正になぜ手を染めなければならなかったのか、だった。ゴキゲン、ワーゲンなんて、楽しそうじゃんと思っていた矢先だっただけに、ちとビックリ。いろいろ記事を追っているうちにキーワードとして浮かんできたのは、権力の集中(あるいは腐敗)、株主至上主義、短期成果主義、この三つだった。東芝の不正会計でも浮かんだものだった。

 VWが行った不正を、あえて通俗的な比喩を使って表現するなら、常に親から良い成績を期待される子供が、そのプレッシャーから逃れるためにカンニングに走ったようなものだ。

 では、VWが感じていたプレッシャーとは何だったのか。おそらく冒頭のマクラで振った進化するハイブリッド車の存在だったのではないか。クリーンディーゼルと命名して、実際、排ガス抑制で目を見張る進化を遂げてきたとはいえ、20世紀型カテゴリーに属するディーゼルエンジンでは、馬力性能や耐久性能が重要なジャンルでは優位に立てても、環境性能と燃費性能で雌雄が決するジャンルでは、やや不利な戦いを強いられることは否めない。

 そこに危機感が生まれ、生産部門と販売部門へのドライブが横行し、現場は不正に手を染めざるを得なくなった。。。

 もうひとつ気づいたことがある。ニュースによれば、今回の問題でリコール対象となるのは、2009年以降のディーゼル車だという。時あたかも、リーマンショックの影響で金融と経済が疲弊した時期で、トヨタが北米で大規模なリコールと集団訴訟に晒された時期に重なる。ライバルメーカーが前のめりに突っ走る動機の一つになって不思議ではなかったのかも知れない。

 ことの真相はいつか見えてくるのだろうけれど、以上が、現段階での自由勝手気ままな空想である。

 この問題については、清水和夫というモータージャーナリストが「5分でわかるVWの排ガス規制違反問題~清水和夫が真相に迫る」というタイトルの記事を公開している。不正の背景として、米国における低品質の軽油の存在、功を焦ったVW上層部による社内への圧力の存在を指摘していて、なるほどと納得。興味のある向きは、こちらもどうぞ。

 最後にひとつ。ただ、しかし、そうは云っても、新しい時代のトレンドとマスの需要とは共存するのが常なのだと思う。しばらくは熱にうなされたかのごとく、ディーゼル悪玉論が流布されるかもしれないけれど、これでディーゼルエンジンの存在が急速に減少するとは思わない。世の中の現実は、オセロのように、黒と白が簡単に反転したりはしないのだから。

(追記)
 2009年から始まったとされるVW排ガス不正。不正に動いた背景にはさまざまな要因が透けて見えるけれど、(まだ噂の段階だが)結果としてやったことは、コスト削減のため排ガス浄化触媒のプラチナ使用量を半減し、それを隠蔽するためのソフトウエアを使ったのではないか、という説が飛び出して来た。


画像出典:ロイター


# by naomemo | 2015-09-25 10:23 | いまを読むノート


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ドイツの移民受入れ推進政策の背景には、第二次大戦の荒廃から一刻も早く立ち直りたいという動機と、ナチス・ドイツ体制下の他民族への苛烈な対応への反省があるのだろうと思う。しかし、このまま従来の移民政策を続けて良いかどうか、きわめて危うい状況になって来た。

先般、英国を目指す地中海難民を英BBCが盛んに報じていると紹介したが、こんどは仏F2、独ZDFが、ドイツを目指す大勢の移民・難民を頻繁に紹介するようになった。彼らが押し寄せる姿は、あたかも民族の大移動でもあるかのように映る。

シリアの内戦から逃れるために、あるいはISの攻撃から逃れるために、ひょっとしたら貧困から逃れるために、バルカン半島を通って欧州へ流入しようとする大勢の移民・難民。彼らは、セルビアからハンガリーを経由してオーストリア、そしてドイツを目指しているという。(ドイツからの要請があるのかないのか分からないが)、移民・難民の流入を食い止めるために、ハンガリーは、セルビアとの国境に有刺鉄線を張り巡らせた。しかし、有刺鉄線などいっときの時間稼ぎにしかならず、難民たちは、いともたやすく乗り越える。

それでもハンガリーは、パスポートを持たない彼らをノーチェックで黙って通過させるわけに行かない。その結果、ブダペスト駅周辺は、膨大な数の移民、難民で溢れ返っている。その映像はNHKでも放映するまでになった。

今年になってドイツに入った移民・難民は、すでに80万人に及ぶと云う。そのうち地中海難民は30万人を占めると云う。

それにしてもなぜ移民・難民がドイツを目指すのか。

それはおそらく欧州でいちばん光り輝いている国だからだろう。第二次大戦後に積極的に移民を受入れ労働力を確保して来た歴史があるからだろうし、(建前では)民族差別が固く禁じられているからだろう。そうしたことが相まって移民・難民を自ら引き寄せてしまっているという側面もありそうだ。

しかし、現在のような数多の新規の移民・難民の流入が続けば、あっという間に許容範囲を越えることだろう。つい先日、メルケル首相も、移民・難民問題に、強い危機感を表明した。この問題は、ギリシャ問題よりも深刻と受け止めているようだ。

以前、欧州に「国境が復活する気配」と書いたけど、だんだんと現実味を帯びつつある。

欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉


画像出典:googlemaps

# by naomemo | 2015-09-02 21:45 | いまを読むノート


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だいたい毎朝4時前に起床して1時間ほどウォーク&ランあるいはウォーク&トレーニング。ここから1日は始まる。しっかり汗を流しシャワーを浴びないと、アタマがはっきりしない体質というか年齢なのだ。それからだいたい1時間ほどBS海外ニュースを観ているのだが、ここ数日前から繰り返し報道されていることが気になっている。

ひとつはフランスにおける酪農家たちのデモンストレーション。隣国ドイツとの境、スペインとの境で、フランス国内に入って来るトラックを停止させて、酪農家たちが荷物検査を行っているのだ。一種の検問である。ニュースだけでは把握し切れないところがあるけれど、どうやらこんなことらしい。ドイツあるいはスペインから入ってくる安価な製品によって、同国の酪農業が半端ない痛手を被っている。さらに米国主導(欧州追随)によるプーチン・ロシアへの経済制裁の長期化によって、フランスの酪農家は上得意先を失い瀕死の状態にある。この二つが相まって、鬱憤が溜まりに溜まり、怒りのエネルギーが沸騰しているかのようだ。

もうひとつは英国の移民受け入れ拒否。フランスのカレと英国のドーバーを海底で結ぶトンネルを英仏海峡トンネルというが、(BBCはユーロトンネルと呼んでいるが)、カレー側のトンネル入口にトラックが長蛇の列をなしている。どういうことかといえば、英国に憧れてカレからドーバーを目指す大勢の移民を、英国サイドが水際で塞き止めているわけだ。ただでさえ同国は移民対策に窮しており、さらなる移民の流入はご免被りたいということだろう。テロの脅威、差別や格差などがコントロール不能になりかねず、広い意味での英国社会の安定がこれ以上損なわれることを防ごうとしているわけだ。

この二つに共通して登場しているのが、ボーダーすなわち国境である。

思い起こせば戦後の欧州は、第一次大戦、第二次大戦のような大きな戦争を二度と起こさないという強い思いを持って再出発。戦争資源(石炭や鉄鋼など)の共同管理を行ない、域内の関税を撤廃し、人の移動を自由にし、ついには通貨もひとつにして来た(英国はポンドを維持しているが)。欧州全土をひとつの共同体にまとめ上げればケンカも起こらないだろう、と考えたわけだ。そして、現在のEUがある。

ボーダー=国境は無くなり、モノもヒトも自由に行き来できるようになったわけだが、どうもここに来て雲行きが怪しくなり始めた。これまで東欧および中東からの移民が、高齢化対策、労働力確保、生産性向上といった課題解決策だった時代から、国内の格差・差別を助長し、挙げ句の果てにテロの温床にもなる時代へ移行しつつあるかに見える。

結果的には否決されたがスコットランドには英国からの独立を望む国民が多くいる。英国のキャメロン首相は同国のEU離脱を国民投票にかけるらしい。バルセロナを抱えるカタルーニャはスペインからの独立を望んでいる。そのスペインではドイツ主導のEUが押し付ける緊縮策に反対する勢力が台頭している。

ボーダーレスを求めるグローバリスムとボーダーを復活させたい愛国主義。この対立の構図が、欧州でますます際立ち始めているようだ。


欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

# by naomemo | 2015-07-29 15:06 | いまを読むノート


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純金積立とプラチナ積立をおやりになっている読者から、以前、こんな質問をいただいた。「金とプラチナは同じスタンスで買っていて良いものかどうか」と。なかなかクールな質問です。

両者はおなじ貴金属でありながら、さまざまな違いがあります。そうした違いを知っておくことで、たしかにスタンスは変わるでしょう。今回は、両者の違いを5つの視点で整理してみます。

第一の視点:通貨としての顔
金は装飾品として7000年の歴史を有しています。通貨としても2500年の歴史があります。金はそれだけ長い過酷な時の風雪に堪え、いまなお装飾品として資産として価値を認められています。それに対してプラチナはどうなのか。貴金属として一般に認知されてから、残念ながら250年の歴史しか有していません。発見や認知が遅れた要因は、産出地域がごく限られていること、融点が高く(金が 摂氏1064.4度、プラチナが摂氏1770度)、加工が容易ではなかったことが関係しているのではないかと思われます。いずれにしてもこの浅い歴史ゆえにプラチナは「通貨になり損ねた貴金属」、と云うことができるかも知れません。通貨としての顔を持つ金、通貨としての顔を持たないプラチナ、ここがまず第一の違いでしょう。

第二の視点:市場規模の違い
金もプラチナも希少な貴金属として知られています。が、希少性という観点で見ると、プラチナは貴金属の王様とも云うべき存在です。市場規模で言うとプラチナは金の1/20、希少価値では断然プラチナに軍配が上がります。したがって、平時であれば、金よりプラチナの価格の方が高いのが普通です。ただ、当然のことながら、金に比べてプラチナの流動性は低いわけで、プラチナの市場価格は時に大きく変動しがちです。

第三の視点:産出地域の違い
金は希少な貴金属と云いつつも、北米、中南米、アジア、アフリカ、オセアニア、ISなど、世界各地域であまねく産出されています。ところが一方のプラチナは、その産出量の7割を南アフリカ共和国に依存しています。したがってプラチナの供給は、同国の政治および経済状況の影響を強くに受ける傾向があります。とくに鉱山労働者の賃金上昇圧力と電力インフラの脆弱さが、同国の鉱山経営にとって二大リスク要因になっています。

第四の視点:需要構造の違い
金需要は、宝飾品と工業品で6割、残りは公的部門の購入および個人投資用という構成になっています。商品と通貨の二つの顔を持つゆえに、金需要は景気動向に左右される反面、金融情勢にも大きく左右される傾向があります。一方で、プラチナ需要はディーゼルエンジン自動車の排ガス触媒と宝飾品で8割近くを占めています。残りもほとんどが工業用の需要です。プラチナは産業用の貴金属であるため、需要動向は景気に大きく左右されます。

第五の視点:主要な需要地域
金の最大需要地は、いまさら云うまでもありませんが、インドと中国です。両国の需要を合わせると、世界の現物需要の4割程度となります。一方、プラチナの需要地は、欧州と中国です。欧州の主要な需要はディーゼルエンジン自動車の排ガス触媒、中国の主要な需要は宝飾品、この二つだけで世界需要の4割に達します。とくにプラチナ需要の動向を見る上で、この点は重要です。

このように金とプラチナはおなじ貴金属でありながら、投資媒体としては、かなり違いがあることが分かります。いろいろな考え方があるだろうとは思いますが、まとめれば中長期の資産として保有するのであれば金、中短期の投資を楽しむのであればプラチナ、と位置づけて付き合って行くのが良いのではないでしょうか。


イラスト:三井孝弘さん



# by naomemo | 2015-07-24 11:19 | →はじめての金読本