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欧州ではEU内の国々を二つに分けて論じることがあるようだ。すなわち、アングロサクソン・グループとラテン・グループと。ゲルマンも前者のアングロサクソン・グループに入れているのだろうか。いずれにしても、このふたつグループの溝はとても深いという認識があるようだ。

ふむふむと思いつつも、極東の島国から眺めていると、これは民族間の溝であると同時に宗派間の溝であるように感じられないこともない。〈欧州雑感03:内部の宗派対立〉でも触れたけれど、欧州には東方正教会派のほかに、カトリック教会派とプロテスタント諸派が混在しており、そもそも一枚岩にはなりにくい歴史的背景がある。

そして歴史の綾ともいうべきかどうか、アングロサクソン・グループの国は、カトリックの総本山から地理的に遠いところに存在している。コントロールの薄い地域で宗教革命は起きた。ここのところで民族的な資質と地理的な要因がクロスしたわけだよね。

リーマンショックに起因する世界金融恐慌とそれに続く景気後退で、金融・財政部門の改善が自力では達成できない可能性のある国として名前が挙がった国はどこだったか。ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン、これにアイルランドを加えた5カ国です。ギリシャを除くとすべてカトリックの国です。

こういう表現が適切かどうか分からないけれど、教会の大きな屋根の下で神の慈愛に包まれるカトリックに対し、聖書を片手に航海に出て神の声を直接聞くプロテスタント、このふたつは生き方が大きく違うのではないかと感じます。

第二次大戦後、経済軍事大国化する米国に対抗して欧州は経済連携を深め通貨も統一して来たわけだけれど、リーマン・ショックをきっかけに歯車が狂い始め、理想と現実の違いが次々とあらわになりつつある。いちど狂った歯車はなかなか元には戻らない。英国がユーロに与しなかったのは、思えば当然のことで、なにしろ清教徒革命が吹き荒れた国なのだから、カトリックと同一の通貨にはなり切れない歴史があるわけね。

こうした民族、宗教、文化の大きな違いまで考えると、ユーロはまさに正念場という感じがする。ギリシャの扱いを過つと、亀裂からマグマが吹き出す可能性があるのでは、と。将来も地域通貨なるものが存続するとすれば、ユーロはふたつに分断したらどうなのだろう、などと妄想したくもなる。そんな単純な問題じゃないことは重々承知しつつ、興味は果てしなく広がっていく。


欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

画像出典:ウィキペディア「カトリック教会(サン・ピエトロ大聖堂〉」


by naomemo | 2015-02-27 09:23 | いまを読むノート

金利を産まない金の価値


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はじめての金読本、移植第6弾です。2011年11月11日に公開した原稿に手を入れたものです。

お金は、人から人へ、企業から企業へ、国から国へ動きます。もちろん企業から人、人から国へも動きます。社会のなかに張り巡らされた血管のなかをお金がぐるぐる回ってくれることで、社会生活や経済活動は成り立っています。

ぐるぐる動いた結果として利益が生み出されます。昨今とても微々たるものになっているとは云え、銀行は利益の一部を預金者に「利子」として渡します。一般企業の場合はたとえば「配当」という名目で分配します。

もう一歩、駒を進めてみましょうか。銀行も一般企業も資金の貸し手(=出資者)がいなければ存在しません。そもそも設立の原点に「貸し借り」というものがあるわけです。

貸し借りはもちろんタダではありません。そこで関与してくるのが「信用」です。信用が高ければ安い利子でお金を借りられます。しかし信用が低ければ高い利子を付けなければお金は借りられません。

どちらが利益を出しやすいかは云うまでもありませんが、それはさておき、お金は利子や配当と切っても切れない関係にあるわけです。利子や配当がついてこそお金としての存在価値があると云っても差し支えありません。

ところがここに利子や配当と無縁のお金がひとつあります。もともとお金であり通貨価値の拠り所と見なされてきた金です。金は社会のなかをぐるぐる動いて利子や配当を生み出すことがありません。

社会や経済のなかで流通するお金とは異質なもので、金は本来、投資とか運用から遠い資産です。お金としては歪んだ存在と云うことが出来るかも知れませんが、だからこそ金は信用とも信用リスクとも無縁の資産となります。(※)

そんなお金としては歪んだ金が、21世紀に入って輝きが増しているのは、つまり、社会や経済が混濁して先々が見通せなくなっているからに他なりません。

最後にひとつ。金はたしかに信用とも信用リスクとも無縁の資産です。ただ、金には金利がつかないゆえに、金利の上昇や株価の上昇局面は、金価格にとって大敵となります。金と付き合う場合は、ここのところをしっかりと認識しておくことが大切です。

次回から、金価格のABCをとびとびで4回に渡って掲載します。


イラスト:三井孝弘さん


(※)
もしも配当を産む金があるとしたら、そこには何がしかのリスクがあると考えてしかるべきでしょう。



by naomemo | 2015-02-26 08:53 | →はじめての金読本

爬虫類目のクルマ


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街を歩いていて、ときおりハッと感じることがある。爬虫類が街を駆け抜けている!まさか、そんなことある訳ないし、幻影を見ている訳でもない。ジュラシックパークの話がしたい訳でもありません。

いつの頃からか定かではないんだけど、なぜこうも新しく出てくるクルマの顔が怖いのか。気になるのが人間で云えば目に相当するフロントライトのデザイン。ほとんど爬虫類の目である。凶暴な爬虫類がいまにも食ってかからんばかりに睨みつけているように見えるのだ。

フロント部分の空力特性をとことん追求したらこうなった、と云うことなのだろうか。いやいや、そういうものでもあるまい。いまの険しい時代の空気が、あたかもクルマのデザインに乗り移ったかのようである。

そう考えて見渡してみると、街ゆく人の顔も、やっぱり同じように険しくなってるような気がしないでもない。満員電車のなかも、ときおり険しい雰囲気になることがある。けっして安穏とは云い難い。穏やかな気分でいたいものだ。

今回は考えていることがまとまらず、落とし話でお茶濁し。じゃんじゃん。


爬虫類の画像出典:
http://farm9.staticflickr.com/8016/7102606065_e64108e8a3_b.jpg

by naomemo | 2015-02-25 06:56 | いまを読むノート


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はじめての金読本、移植第5弾です。2010年2月10日に公開した原稿を整理、加筆したものです。

金の真価を考える上で、よい材料が数年前に身近にありました。

戦後の日本を象徴する会社の一つである日本航空が、長期にわたる経営不振から脱け出せず、政府の支援をうけて出直すことになりました。理由や事情はさておき、その結果、日本航空の株価は一旦ゼロになることが決まりました。今から30年前、誰がこの姿を予想したでしょうか。

株価というのは会社の経営状況を反映します。好調が続けば、あるいは成長すると予想されれば、株を買う人が多くなって、おおむね株価は上がります。株主は配当を手にすることもできます。

もちろん実際はそれほど単純なものでもなく、現在の米国や日本のように、中央銀行による果敢な量的緩和によって株価が押し上げられている面もありますから、一概には云えません。

その反対に不調が続けば株価は下がります。経営が立ち行かくなれば、株価はゼロになります。先の日本航空はその最悪のケースに当たります。(※)

でも、これは、株に限ったことではありません。極端なことを云えば国債にも当てはまることです。発行元が、株は会社、国債は国という違いはあっても、つまるところ信用がベースという点では同じです。信用が高ければ価値ある優良な資産となりますが、信用を無くせば無価値になりうるというのが、株や国債といったペーパー資産の宿命です。

それと好対照なのが金地金や金貨です。金は世界各地で産出される貴重な天然資源です。会社とか、国とか、つまり誰かの信用に依って価値が成り立っているものではなく、独自の価値をもつ実物の資産です。

自立した資産ですから、金は「信用」とも「信用リスク」とも無縁です。何があっても無価値になることがありません。

そして同時に「自立した資産」であるがゆえに、金は金利という果実を生むこともありません。株のように配当が付くということもありません。ただ、そこに存在するだけのものです。

そうした意味から、金は、攻めの資産ではなく、守りの資産と云うことができます。あくまで「万一の保険」であり「ヘッジ資産」です。世界中が戦争に向かいつつあるかに見える今だからこそ、注目しておきたい金の側面と云えるでしょう。


イラスト:三井孝弘さん


(※)
2010年にいったん倒産した日本航空ですが、そののち稲盛和男という名経営者を得て再建を成し遂げたことは、社会にとっても従業員にとっても、僥倖と云うほかありません。



by naomemo | 2015-02-20 09:04 | →はじめての金読本


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先日、WOWOWでケイト・ブランシェット主演の「エリザベス」と「エリザベス:ゴールデン・エイジ」を連続で観なおす機会があった。ケイト・ブランシェットのエリザベスもなかなかのものだったけれど、ジェフリー・ラッシュ演じるフランシス・ウォルシンガムが目を引いた。

この作品がどこまで史実に基づいているのか不明なのだけれど、エリザベス政権を確実なものにするべくフランシス・ウォルシンガムによって国内外に張り巡らされた諜報・監視網が、世界に冠たる英国諜報組織の礎になったのかも知れないな、などと妄想を逞しくしてみたりもした。

映画の中では、まるで「ゴッドファーザー」における敵対勢力の謀殺を彷彿とさせるようなシーンがあった。ちょっとやり過ぎじゃないの?と思いつつも、あらためて英国の16世紀は血塗られた時代だったんだなと感じたし、宗教がからむ軋轢あるいは宗教の衣をかぶった対立が表面化すると、じつに厄介になるものだな、とも感じた。その意味で、面白い作品ではあった。英国はそれから半世紀後に清教徒革命の嵐が吹き荒れる訳だけれど、繋がっているわけね。

さて、ロシアのことである。

プーチン大統領は、旧ソヴィエト連邦時代に宗教が厳しく弾圧されたのとは対照的で、ロシア正教会を手厚く保護していることで知られる。根っ子に個人的な宗教心もあるのかも知れないけれど、やはり政権の求心力強化のためにロシア正教会を利用して愛国心を温めてきた、と見るのが正解だろう。結果、愛国心の体温は、すでに適温を越えて沸騰しかけていると見られている。その最右翼がウクライナの親ロシア派であろう。ウクライナは東部地域を失うと経済が破綻するとの見方がある一方、その東部地域はロシア語地域であり首都モスクワの喉元に位置することから、双方の歩み寄りは容易ではないわけだ。

宗教の文脈で欧州を見渡すとロシアと共通の宗派に属する国がいくつかある。なかでも目を引くのが、いままさにEUにとって頭痛の種となっているギリシャである。それぞれロシア正教会、ギリシャ正教会と呼ばれてはいるが、これは東方正教会のロシア版、ギリシャ版であって、別物ではない。プーチン大統領がロシア正教会を保護してきた深慮遠謀は、こんなところにも感じられる。

欧州の「東の果て」と「南の果て」には、欧州と宗派が異なる国がある。

では、東方正教会を除けば、欧州内部は一体かといえば、そうでもなく別の宗派対立の芽もある。これはまだ地下深くに眠っているのだけれど、EUが経済財政問題だけでギリシャの扱いを誤ると、目を覚ますような気がする。

(※)
エリザベスの画像をクリックするとAmazonの関連ページにジャンプします。このブログには、ところどころに隠しリンクを埋め込んであります、じつは。


欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

by naomemo | 2015-02-19 08:35 | いまを読むノート

金は国籍を持たない通貨


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はじめての金読本、移植第4弾です。2010年2月1日に公開した原稿を整理、加筆したものです。

海外に出かけると日本とのさまざまな「違い」に気づかされます。町並みが違います。食べ物が違います。人の肌の色や顔つきが違います。もちろん歴史も文化も習慣も違います。それらの違いが言葉の違いとなっても現れています。

とうぜん、その地で使われているお金は日本円ではありません。その地が米国なら「ドル」が使われています。EU圏なら「ユーロ」が使われ、お隣の韓国なら「ウォン」が使われ、中国なら「人民元」が使われています。なにを今さらと思われるかも知れませんが、もう少し我慢してお付き合いください。

お金が違うということは、たんに名称や単位が違うというだけのことではないのですね。お金は、その国の歴史、経済、社会、文化というぶあつい土台に根ざしているもので、言葉とおなじく国籍や地域籍を持っているわけです。

ここで少し寄り道をします。

EU圏の単一通貨「ユーロ」は誕生してまだ16年です。いま荒波に揉まれて試練の時を迎えていますが、ほんとうの意味で域内に根付いていくには、それ相当の時間が必要ということなのでしょう。

ユーロ硬貨のデザインそのものが暗示的でもあります。表面のデザインは共通でヨーロッパの俯瞰図が描かれていますが、裏面は各国独自のデザインになっているからです。まさに「通貨はひとつ、財政も国の事情もバラバラ」というユーロのアキレス腱が、硬貨のデザインに現れていると云えそうです。

さて、ここに、世界にひとつだけ国籍を持たないお金(通貨)が存在します。どこの国あるいは地域が発行しているわけでもないのに、通貨としての価値が認められているもの。それが金です。

たしかに金貨にも金地金にも、製造元の商標などが刻印表示はされてはいますが、有り体に言えば、それは血統書みたいなもの。評価の尺度は、金の場合、品位(金の純度)であり重量であって、それはまさに世界共通のものです。

繰り返しますが金には国籍も地域籍もありません。どこのパスポートも必要としない無国籍通貨です。だからこそ民族のカベを越え、宗教のカベを越え、国家や政治や経済のカベも越えて、世界の誰からも受け入れられているのです。

世界中にリスクが満ち溢れている現在、この点は、もっとも注目すべき金の真価と云って良いかも知れません。


イラスト:三井孝弘さん

by naomemo | 2015-02-18 07:40 | →はじめての金読本

昨日から熊本


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昨日から熊本入り。昨日は熊本市内を歩き回って、もちろん熊本城もしっかり堪能。加藤清正の築城という写真の熊本城はじつに壮観であった。

この城の石垣は、最初はゆるやかだけど、途中から垂直になっている。とても美しいカーブを描いているのだけれど、これを武者返しと云うそうだ。

また至るところに櫓(やぐら)があって、これは不測の事態に備えていつでも籠城できるようにと考えられたものだとか。実際、西南戦争の折り、官軍がこの城に籠城し、西郷軍の攻撃に堪え抜いたそうだ。

あ、いやいや、観光で熊本に来た訳じゃありませんです。熊本大学の横瀬先生への取材が目的。火山の話から、海洋金属鉱床の話、プラチナの話まで、研究室でたっぷり二時間、貴重なお話が聞けました。じつに面白かった。折りをみて紹介できたらいいなと思っています。

by naomemo | 2015-02-17 16:47 | ノン・カテゴリー

ケン・ローチの言葉


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「英国の至宝」と呼ばれる映画作家がいる。欧州映画のファンなら知らないものはいないであろうケネス・ローチ、通称ケン・ローチである。1936年、イングランド中部のウォリックシャー州ヌニートンで誕生。現在78歳である。

英国の労働者階級や移民を描いた作品に傑作が多いが、日本で人気が高まったのは2006年公開の「麦の穂をゆらす風」がキッカケだったろうと思う。同作品は第59回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドール(Palme d’Or=黄金の棕櫚)を受賞している。

その彼が2005年の”Sweet Sixteen”以来、数々の作品でコンビを組んでいる脚本家がポール・ラヴァティ。この盟友ともいうべき二人の共同作品に、民間軍事会社によって雇われた民間兵を題材に、世界を覆いつつある軍事ビジネスの実体を描いた「ルート・アイリッシュ」がある。日本でも2012年に公開されたので観た人は多いと思うが、その映画の冒頭にこんなテロップが流れる。

「真のイラク戦争終結は、すべての戦争請負業者たちが、あの地から去ってはじめてなされると我々は信じている ー ケン・ローチ」

私はこの映画をキッカケに、戦争はもはや〈国の軍隊〉と〈国の軍隊〉の間だけで行われている訳でもないことを知った。以下がウィキペディアによる民間軍事会社についての説明文の一節。

「1980年代末期から1990年代にかけて誕生し、2000年代の「対テロ戦争」で急成長した。国家を顧客とし、人員を派遣、正規軍の業務を代行したり、支援したりする企業であることから、新手の軍需産業と定義されつつある。」

つまり、民間軍事会社とは、東西冷戦が終了する頃に生まれ、民営化ブームの進展とともに成長したビジネスということなのだろう。そういえば、ケン・ローチも、ポール・ラヴァティも、1990年代から進む「規制緩和」「民営化」「自由化」の負の側面にスポットを当てて来たようにも思う。

その意味で、彼らは、すでに十年前から、いま世界中で熱気を帯びつつある愛国主義の勃興を予見していた映画作家と云えるかも知れない。

最後になったけれど、彼らの最新作が日本公開中である。その「ジミー、野を駆ける伝説」は「麦の穂をゆらす風」の続編とも云われているが、さて、どんな作品なのだろう。私もちかぢか観たいと思っている。予告編がYouTubeに上がっているのでリンクを張っておきます。

画像出典:「天使の分け前」公式サイト



by naomemo | 2015-02-13 11:27 | シネマパラダイス


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はじめての金読本、移植第3弾です。2010年1月21日に公開した原稿を整理、加筆したものです。

人類が金と出会ってから、少なくともすでに7000年もの時間が経過しています。この点はすでにお話した通りですが、それだけ膨大な時間をかけて、これまで人類が営々と採掘し、精製し、加工してきた金製品は、この地上にいったいどれくらいあるのでしょうか。

もったいぶるつもりはありません。地上に存在する金製品をすべて集めて純金に精製し直すと、2010年末で約166000トンとされます(※1)。現在、年に2500〜3000トンほど新規に掘り出されていますから、それから4年経過した2014年末では、およそ178000トンほどになるだろうと推計されます。

178000トンと云われても、その数字だけでは実感が湧かないだろうと思います。それがいったいどれくらいの量になるのか、使い古された喩えになりますが、イメージしやすいようにオリンピック競泳用の50mプールに全量を熔解して流し込んだとすると、およそ3.7杯分になります(※2)。そのうち世界の中央銀行が保有している金は30000トンほどです。

全世界の金を集めても、それだけの量ですよと云っても、驚いて信じない人が多いのですが、これは事実です。金の地上在庫はじつに僅かなものという他ありません。

金が持つ不滅の輝きその長い通貨としての歴史と同様に、この希少性も、金がもつ真価のひとつとなっています。


イラスト:三井孝弘さん


(※1)
金の地上在庫166000トンというデータは、世界的に信頼の高い英国の貴金属調査会社GFMS社(現在Thomson Reuters社の貴金属調査部門となっています)が毎年発行している、“Gold Survey"(金需給報告書)2011年版に記載されています。



(※2)
オリンピック競泳用の50mプールを、仮に縦50m×横25m×深さ2mの容量として計算しています。数学が得意の人はご自分で計算してみてください。ちなみに金の比重は19.3です。1リットルのペットボトル1本に入った金と釣り合う水は、おなじ容量のペットボトル19.3本分というわけです。



(追記)
上の注釈(※2)で言及したオリンピックプールの深さについて、読者から問い合わせが入ったので、少し説明します。オリンピック委員会による推奨深度は3メートルとなっています。しかし実際的には2メートル以上あれば規格をクリアするようです。したがって、ここでは希少性をいたずらに煽ることを避けるためもあって、最低深度2メートルを採用しています。

by naomemo | 2015-02-12 05:00 | →はじめての金読本


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理屈では右へ行くのが正しいと分かっているのに、結果として左へ向かってしまうなんてことがある。なんとも理解しがたく歯がゆいことではあるけれど、夫婦のあいだでも、親子のあいだでも、会社組織においても、はては国と国の関係でも起こりうることだ、これは。

欧州のことが気になっている。ウクライナ問題、ギリシャ問題、「イスラーム国」問題、内なる移民の問題、そして域内の景気後退と、問題山積である。これからどうなるのだろう。

欧州が第二次大戦後に歩んできた道筋にヒントがあるかも知れない。

第一次大戦、第二次大戦のような大きな戦争を二度と起こさない。戦後の欧州はそんな強い思いから再出発したようだ。そして戦争資源(石炭や鉄鋼など)の共同管理を行ない、域内の関税を撤廃し、人の移動を自由にし、ついには通貨もひとつにして来た。欧州全土をひとつの共同体にまとめ上げればケンカも起こらないだろう、と考えたわけだ。たぶん。

二度に渡る大きな戦争で欧州全域が戦場となり、数え切れない人が亡くなったわけだから、誰よりも平和と安全を強く願う気持ちは理解できる(つもりである)。けれど、幸か不幸か、人間という生き物はなかなか理想どおりには動かないようだ。いがみ合いも起きるし、ケンカも起きる。

人は自分が育った国を簡単には離れられない。生まれた時から使って来た母国語を捨て去ることなどできるわけもない。そもそも身体のなかを流れる血は入れ替えがきかない。欧州連合という共同体の大きな傘が出来て一時はうまく行くかに思われたのだけれど、それが、リーマンショックに始まる金融危機でいかにも脆いものだったことが露呈したわけだ。寄り合い所帯だから、金融対策・経済対策ひとつまとめるのに、とても時間がかかる。

挙げ句に浮かび上がって来たことは、それぞれの国で生まれ、育ち、学び、働き、愛し合い、憎しみあい、涙し、笑い、生活する人々の姿だった。共同体の理想の目の前に、突然のごとく「愛国心」という名のゴジラが出現してきたわけだ。これは新聞やテレビの報道からも感じていたが、欧州の数々の映画を観てきた率直な感想である。映画は世相を映す鏡の役割を果たしてくれるのだ。

いまウクライナで起きている問題も、ギリシャ離脱を巡る問題も、欧州の立ち位置から突き詰めれば統合と愛国のせめぎ合いと云って良いのだろう。もしもドイツがギリシャを共同体から離脱させるようなことになれば、そもそもの共同体の理想あるいは初期目的に亀裂が生じることになる。結果、愛国主義がさらに広がり勢いを持つことになりそうな気がする。そこを見切った積もりになってギリシャは横着をしているのだろうが、さてどうなるだろう。


欧州雑感08:国境が復活する気配
欧州雑感07:弱い国が強い通貨を持つ悲劇
欧州雑感06:スペインが熱い
欧州雑感05:イタドリという外来種
欧州雑感04:二つのグループ
欧州雑感03:内部の宗派対立
欧州雑感02:統合か愛国か
欧州雑感01:地中海国境という言葉

by naomemo | 2015-02-10 14:14 | いまを読むノート