カテゴリ:シネマパラダイス( 65 )

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渋谷文化村ルシネマが毎週火曜日サービスデーになってることを知って、さっそく昨晩、仕事を放り出して行ってきた。目当ては、同時上映の「ダウト」ではなく、「ホルテンさんのはじめての冒険」の方である。なんとなく気になっていたのだ。

ベテラン運転士ホルテンさん、アパートで一人暮らし。お弁当と飲み物を用意し、小鳥のかごに覆いをかけて仕事場に向かうシーンから始まる。電車に乗り込んで、やおらパイプに火を付けて出発。しばらくして暗いトンネルを抜けると、そこは一面の雪景色。まるでホルテンさんが運転するベンガル急行に乗り込んでいたかのように、トンネルから抜けた後に飛び込んできた雪景色がじつに眩い。

なんだか川端康成の小説の出だしのようだなあと思う。そしてトンネルに入ったり抜けたりの繰り返しが、なにやら不思議な世界の始まりを暗示するシーンのように印象的。しっかりと脳裏に刻み込まれた。

ホルテンさんは、晴れがましい席を好むタイプではなく、淡々と40年間、電車の運転士として実直に働いてきた人だ。ところが、67才の誕生日で定年を迎える前夜から、奇妙な出来事に次々と遭遇する。送別会の二次会が開かれているアパートに入れなかったり、いつも愛用しているパイプを紛失したり、靴を失って赤いハイヒールを履く羽目になったり…。そしてある老人との出会いをきっかけに、自分を縛っていたものと初めて本気で向き合うことになる。新しい人生を歩むには、やはり何か大きなきっかけが必要ということなんだろうな。やがて、ホルテンさんが独身を通してきた理由も見えてくる。

それにしても、この「ホルテンさん」という映画は不思議な感覚に充ち満ちている。現実と非現実のトワイライトゾーンのような世界とでもいえば良いだろうか。北欧世界の時間と、極東の日本世界の時間とでは、こんなにも違うものなんだねえ。監督、脚本のベント・ハーメルという人、少し気に入りました。そして北欧の映画を、これからも観て行こうと思う。



by naomemo | 2009-04-08 07:00 | シネマパラダイス

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港北マイカルまで出かけて、ようやく「おくりびと」にありついた。

奥の間で横たわる若い女性。どうやら遺体のようだ。納棺夫(おくりびと)らしき人物が二名、そしてその女性を見送るべく集まっている身内たち。やおら主人公の納棺夫(本木雅弘)が、遺体を浄める作業に入る。ところが、股間に思わぬものが…。納棺夫の上司(山崎努)と思しき人物が、身内と話し合うというシーン。これがタイトルバックの映像。

ここで場面が転換し、いったん過去へ戻る。主人公夫婦が、都会から故郷の山形へ移住することになる経緯が紹介される。主人公が所属する楽団が経営難で解散したことで、主人公はいとも簡単にチェロ演奏家の道を諦める。ウェブデザインの仕事をしている妻も、いとも簡単に夫の故郷について行く。このあたりの経緯の作り方には、少し無理があるのかなと感じる。

その後、納棺夫になる経緯、納棺夫としての初体験、妻との食い違い、幼馴染みの一言、失踪していた父親の死など、さまざまな変遷を経つつ、主人公が「死を弔う」仕事を通じて成長していく物語が展開する。仕事を通じて、己を見つめ、人生を見つめる真摯な姿。しかし、ユーモアもふんだんに盛られ、泣ける場面も用意されている。過去の経緯の場面を除いて、よく出来た映画だと思う。でも、湯灌のシーンはなかったね。地域や宗派によって違うのかな。

余談だが、本木君って、いつも背筋がビシッとして姿勢がいいなあと思っていたが、身体を鍛え抜いているからなんだねえ。



by naomemo | 2009-03-24 07:00 | シネマパラダイス

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映画の日に、クリント・イーストウッド監督作品「チェンジリング」を観る。1928年。大恐慌の前年。ロサンジェルス郊外。バブル期特有の喧噪感のようなものは直接写し出されてはいないのだけれど、その代わりに目にすることになるのが警察権力の横暴。なんとでもなるという全能感が世の中を支配している、そういう時代に、というか、そういう時代だから、チェンジリングは起きたということなのだろう。

ある日、息子が消える。しばらくして警察が別の子供を連れて来る。息子ではないのに息子として押し付けられる。こんな理不尽が本当にあったとは、信じ難いほどの愚かさだが、全能感に支配された世の中では、異常と正常が容易に入れ替わる。

それでも彼女はひとりで闘いを続ける。そのうちに精神病院に放り込まれる。犯罪者は監獄へ、云うことを聞かないやつは精神病院へ、ということなのだろう。病院には、「反抗的な女性たち」が大勢放り込まれている。男たちは、女たちの、いったいなにを怖れているのだろう…。

ここにひとつのミステリアスがある。

やがて彼女の闘いを支えることになるのは、長老派の牧師、そして社会派の弁護士。彼女の夫は登場しない。息子の父親に関する言及は一回あるだけ。牧師あるいは弁護士が父親の役割を果たしているようにも見えてくる。

ここにもひとつ、ミステリアスがある。

物語は思わぬ展開を見せることになる。子供の捜索を続ける刑事が、たまたま「息子」につながる一本の糸と遭遇するのだ。やがて、生々しく熱い神話的な別の物語が姿を現し、むくむくと動き始める。それにしても、小羊の血を求める獣の物語が、なぜ、現代の米国社会に脈々と生き続けているのだろうか。

ここにもまたミステリアスがある。

やがて二つの物語が出会い、開かれ、混ざりあい、一つの物語に織り込まれ、大団円に向かっていく。やがて、母親の口から、ひとつの言葉が漏らされる。「あの子の存在を感じるの」。耳の奥に残り、胸の中で静かに広がる言葉だ。どうやら、この物語には、死者の声が木霊しているようだ。

クリント・イーストウッドという監督は、一貫して、米国社会の、あるいは人間の、光と陰の境目を見続けてきた人なんだなあ。当時の風俗も楽しめる。役者たちの演技もじつに素晴らしい。絶品である。



by naomemo | 2009-03-05 07:30 | シネマパラダイス

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まだ咳や咳払いは出るが、数日前から、声の通りが良くなってきたような感じがする。これも禁煙のおかげだろうな。それとも自分だけの思い込みか?

さて、先日、「魅惑の名画座」という名のwebサイトを知った。ここでいう名画座とは、おおむね昔でいう二番館のことだね。管理人みずりん、という方が運営しているようだ。

「名画座入門」「名画座紹介」「上映情報」「掲示板」「リンク」という構成になっている。膨大な情報が詰め込まれている訳ではないが、ひとつひとつの情報が丁寧に扱われていて好感が持てる。そして、なにより、「あー、しまったー、あれ見逃したなあ」てなことがよくある私のようなズボラな映画ファンにとっては、じつに便利な映画上映情報サイトでもあるのだ。東京近郊だけど、いつまでも続けてほしいと思う。

by naomemo | 2008-11-27 12:47 | シネマパラダイス

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いよいよ第一段階の目標、禁煙14日目である。この2日間ニコパッチ断ちにも無理なく成功したので、今日は映画を観に行くのだ。渋谷で「BOY A」を観るか、恵比寿で「その土曜日、7時58分」を観るか。うーむ、どっちにしようかと、渋谷ツタヤのプレイガイド前で悩みつつ並ぶという、このオバカな至福。順番が来て、売り場の女の子に迷うことなく「ボーイエー、いちまい」と伝える。その足で文化村近くの映画館シネ・アミューズへ向かう。

受付でチケットを渡し、番号札を貰う。開演まで1時間近くあるのだが、このシネ・アミューズ(ウエスト)の座席は129席しかなく、すぐに埋まってしまうのだ。ここに来るのはケンローチの「この自由な世界で」以来だが、正直なところ、お世辞にも環境の良い映画館とは言えない。天井は低いし、座席の勾配は緩いし、スクリーンも小さいし、まるで秘密フィルムの上映館とでもいった風情なのだ。それでも、この系列の映画館では、ぜひ見たいなという作品を上映してくれるから無視できないのだなあ。 

さて、「BOY−A」はやはり満席になった。映画2作目という英国の新人監督の作品であるにもかかわらず、中年夫婦、おばさん二人連れが意外に多いのが目に付く。そんなに話題になっているのか?なんてことを感じながら、長い長い予告編を見せられたあと、さあ、本編のはじまり、はじまり。

どこか刑務所内らしき部屋で、主人公とおぼしき少年と保護観察官(ケースワーカー)らしき人物が向かい合って会話しているシーン。どうやら少年は保釈されるところらしい。じつに繊細な表情を見せるシャイな少年。この新しく「ジャック」という名前を貰い、保釈され、仕事を紹介され、社会に出て行く元少年Aが、一体どんな犯罪を犯したというのだろうか…。どれくらいの期間収容されていたのだろうか…。時間はおだやかにゆっくりと経過していく。時折、過去へフラッシュバックしながら。ちょっと待てよ、ジャックだって?

ストーリー展開、現在と過去のシーンの切り替わり、なにげない映像処理。そして少年Aを演じるアンドリュー・ガーフィールドの繊細な表情、演技。いずれも素晴らしい。英国の映画って、どうしてこうも渋いんだろうねえ。

愛の不在、あるいは、愛の過剰と、ひとまずメモしておこう。監督ジョン・クローリー、脚本マーク・オロウのコンビには、これから注目だな。ちなみに、保護観察官はピーター・ミュランが演じている。

by naomemo | 2008-11-24 10:30 | シネマパラダイス