カテゴリ:シネマパラダイス( 65 )




丸一年ブログをお休みしたけれど、ぼちぼち再開します。

ヨーヨー・マと旅するシルクロード、よかでした。ヨーヨーが立ち上げたシルクロード・プロジェクトの活動を描いたドキュメント。シルクロードゆかりの国々を回って選んだ音楽家たち、異文化を背景に持つ音楽家たちの出会いから生まれるエキゾチックな演奏。世界が内向きになりつつある時代にあって、これからさらに輝きを増していくのだろうと感じた。

気になった音楽家はといえば、イラン出身の音楽家ケイハン(だったかな?)と中国出身のウー・マン。ケイハンが演奏する楽器は中国の胡弓を思わせた。深々と心に染みる演奏。彼のことをヨーヨーは魂の兄弟と呼んでいた。ウーの楽器は中国琵琶。伝統から逸脱した自由でエネルギッシュな演奏だった。

映画館を後にして、友人から紹介されていたお粥の店まで足を運んだけれど、目当てのお店はお休み。これは残念でした。

by naomemo | 2017-03-06 10:37 | シネマパラダイス

イラン映画3本




先週の土曜日にイラン映画3作品上映会がイラン大使館で開催された。このイベントは現代イスラム研究者の宮田律氏によるプロデュース。3作品とも未見だったこともあり参加し堪能した。

1本目はアッバス・キアロスタミ「風が吹くまま」。アッバス・キアロスタミといえば「オリーブの林を抜けて」「桜桃の味」「トスカーナの贋作」などで知られる、イランを代表する映画作家である。小津安二郎の影響を強く受けているとされる。作品の舞台はクルド人の村。クルド人の老婆の葬儀を撮影できる機会に恵まれ取材に訪れた主人公とクルー(姿は見えないが)。しかし、老婆は元気でいっこうに葬儀には至らない。その間、主人公と村人の間に、たゆたうような時間が流れる。どこか懐かしい感触が残った。なんだろうと思い巡らしていて気づいた。それはおそらく、トルコ、イラン、イラク、シリアの国境に分断されて生きざるを得ないがゆえ生まれたであろうクルドの村人達の諦観のようなものが、国土が複数のプレート上に存在するがゆえに、大地震、火山噴火、津波、河川の氾濫、土砂崩れなどの自然災害に頻繁に見舞われる我々日本人の心象に相通じるところがあるからに違いない。(昼食後の睡魔に襲われ、うつらうつらしながら観たので自信はないけれど、、、。)

2本目はアスガー・ファルハディ「ある過去の行方」。アスガー・ファルハディは、このブログでも以前取り上げているように、縁あって、彼の4作目「彼女が消えた浜辺」、5作目「別離」を観ていた。が、6作目にあたる「ある過去の行方」は見逃していたので楽しみにしていた。前2作から、この映画作家は人間の「嘘」と「秘密」に強い執着を示していると感じていたが、作品を重ねる毎に、深みが増す。ことに今作は「嘘」と「秘密」が織りなす深い森に迷い込んだかのような印象を受けた。見終わってからミステリー仕立てにもなっていることに気づいた。次回作がますます楽しみになった。

3本目はモハマッドメディ・アスガルプール「我が家のお客様」。この映画作家の存在はまったく知らなかった。それもそのはずで、おそらく彼の作品はまだ日本国内の映画館では未公開だと思う。唯一、昨年、やはり同じイラン大使館で上映されたのみではなかろうか。将来公開されるかも知れないので少しだけ。画面には映し出されることはないが、おそらく1980年に始まり1988年に停戦を迎えたイラン・イラク戦争が物語の背景にある。その爪痕が、老夫婦の晩年をより悲しく切ないものにしている。心に染みる作品だった。

時折イラン映画を観るようになったのは、そんなに昔のことではない。2009年の5月に恵比寿にある東京都写真美術館で野町和嘉氏の「聖地巡礼」を観たことがキッカケとなった。驚きに満ちあふれた写真の数々のなかに、一枚、イランの女子高生たちと思しきスナップショットがあった。そこに写っていた目がとても印象的で、しばし立ち止まって見入っていた。昨今の日本ではとんとお目にかからない、思慮深く、強い光を湛え、生き生きと輝く目。感動のようなものを覚えた。写真のキャプションに、イランはその昔ペルシャと呼ばれた国で・・・、と書かれていた。その時はじめて、自分が、いつのまにか欧米の色眼鏡を通してしかイランを眺めていなかったことに気づいた。ちょっとしたカルチャーショックだった。

(追記)
お礼の意味もかねて、この感想を宮田さんにお送りしたところ、現代イスラム研究センターのFacebookにリンクを貼ってご紹介頂いた。宮田さん、有り難うございます。
現代イスラム研究センター

by naomemo | 2016-03-07 17:44 | シネマパラダイス

ケン・ローチの言葉


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「英国の至宝」と呼ばれる映画作家がいる。欧州映画のファンなら知らないものはいないであろうケネス・ローチ、通称ケン・ローチである。1936年、イングランド中部のウォリックシャー州ヌニートンで誕生。現在78歳である。

英国の労働者階級や移民を描いた作品に傑作が多いが、日本で人気が高まったのは2006年公開の「麦の穂をゆらす風」がキッカケだったろうと思う。同作品は第59回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドール(Palme d’Or=黄金の棕櫚)を受賞している。

その彼が2005年の”Sweet Sixteen”以来、数々の作品でコンビを組んでいる脚本家がポール・ラヴァティ。この盟友ともいうべき二人の共同作品に、民間軍事会社によって雇われた民間兵を題材に、世界を覆いつつある軍事ビジネスの実体を描いた「ルート・アイリッシュ」がある。日本でも2012年に公開されたので観た人は多いと思うが、その映画の冒頭にこんなテロップが流れる。

「真のイラク戦争終結は、すべての戦争請負業者たちが、あの地から去ってはじめてなされると我々は信じている ー ケン・ローチ」

私はこの映画をキッカケに、戦争はもはや〈国の軍隊〉と〈国の軍隊〉の間だけで行われている訳でもないことを知った。以下がウィキペディアによる民間軍事会社についての説明文の一節。

「1980年代末期から1990年代にかけて誕生し、2000年代の「対テロ戦争」で急成長した。国家を顧客とし、人員を派遣、正規軍の業務を代行したり、支援したりする企業であることから、新手の軍需産業と定義されつつある。」

つまり、民間軍事会社とは、東西冷戦が終了する頃に生まれ、民営化ブームの進展とともに成長したビジネスということなのだろう。そういえば、ケン・ローチも、ポール・ラヴァティも、1990年代から進む「規制緩和」「民営化」「自由化」の負の側面にスポットを当てて来たようにも思う。

その意味で、彼らは、すでに十年前から、いま世界中で熱気を帯びつつある愛国主義の勃興を予見していた映画作家と云えるかも知れない。

最後になったけれど、彼らの最新作が日本公開中である。その「ジミー、野を駆ける伝説」は「麦の穂をゆらす風」の続編とも云われているが、さて、どんな作品なのだろう。私もちかぢか観たいと思っている。予告編がYouTubeに上がっているのでリンクを張っておきます。

画像出典:「天使の分け前」公式サイト



by naomemo | 2015-02-13 11:27 | シネマパラダイス

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なんとなく気になって、映画館に足を運んで観ようと思っているうちに、うっかり忘れてしまった。自慢じゃないけれど、生来モノグサゆえ、そんなことがよくある。ヤン・ヨンヒ監督・脚本の「かぞくのくに」がそのひとつ。

けれど、先日ようやくwowowの放映で観ることができた。

戦後、北朝鮮と日本との間で国交正常化のきっかけに在日朝鮮人の帰還事業が行われたことは、歴史の知識として知っていた。けれど、それはあくまでも知識というか情報以上のものではなかった。こうしてドキュメンタリー的な映画として観て、はじめて悲しい現実として把握することができた気がする。身体で知ることができた、というか。

じつは、最初に観たいと思った理由は、気になっている女優・安藤サクラが出演していると知ったから。いいね、彼女、とても存在感があって。あと、名作「息もできない」で監督・脚本・主演をこなしたヤク・ユンチュク。鉛のように重く複雑な感情を抱えた男を見事に演じていたな。

ヤン・ヨンヒ監督、気に入りました。




by naomemo | 2013-09-27 13:13 | シネマパラダイス

いま観たい映画3+1本


「屋根裏のマリアたち」


フランス上流婦人のあいだで語られる。「フランス人のメイドなんて、古いわよ。いまや主流はスペイン人ね」と。時代設定は1960年代ということになっているが、なんでもかんでもマーケットという現代への風刺がピリリと効いた作品なのではあるまいか。ラテンのノリがじつに愉しそうだし。てなわけで、ぜひ観てみたいな、と。


「少年と自転車」


ベルギーのダルデンヌ兄弟の作品。公開時に見逃したのだが、来週一週間、ルシネマでアンコール上映されるんだとか。こんどは観るぞ。昨年のカンヌ・グランプリを取った作品だし。それにしてもルシネマ、昨年改装して、気持ちも一新した感じ。アンコール上映やら監督特集やら、ちゃんと客とキャッチボールできてる感じがしていいと思うな。


「ブラック・ブレッド」


この作品のことはよく知らない。けれど何度も映画館で予告編を観た。ダークなミステリーという印象。昨年度の米国アカデミー外国語映画賞スペイン代表作品なんだとか。そう言われれば気になるじゃんね。


「スパイダーマン」


ハリウッド作品は好んで観ることは、あまりない。とはいえ例外もある。スパイダーマンの新作に、アンドリュー・ガーフィールドが起用されたと聞けば、これは観るっきゃない。彼の出演作を観るのは、「大いなる陰謀」「BOY A」「わたしを離さないで」に続いて4本目となる。ちなみに配給元にいる友人に聞いたら、試写でみんな泣いてるよ、だって。脚本がしっかりしてるらしい。

他にもありそうだけど、とりあえず4本。

by naomemo | 2012-06-20 15:17 | シネマパラダイス

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米国アカデミー賞に外国語映画賞という賞がある。2008年に「おくりびと」が受賞して日本でも俄然注目されるようになった賞である。その翌年にはアルゼンチンの「瞳の奥の秘密」が受賞。この作品はじつに質の高いエンターテイメントで、ひどく気に入り、もういちど大きなスクリーンで観てみたいなあと思っているほどだ。オープニングの揺らぎがなんとも美しい。

そして昨年2011年に受賞したのがイランの「別離」。アカデミー賞の授賞式ダイジェストをテレビで観ていて、思わず「おっ」と声が出た。なにしろハリウッドといえば、ユダヤ系の領分である。そこでユダヤからすれば天敵のイラン映画が大賞を受賞することになるとは想像もしていなかったからだ。

しばらくして渋谷ルシネマが同監督・脚本ファルファディの前作「浜辺で消えた彼女」を取り上げたので、さっそく観た。感想は以前書いたとおり。

そして今週おなじ渋谷ルシネマで「別離」を観て来た。前作を一回りも二回りも凌ぐ傑作で、緊張の2時間だった。テーマは、ファルファディお得意の「嘘と秘密」。

登場する大人たちが、それぞれ周囲への配慮から善かれと思って隠した秘密、善かれと思ってついた嘘が、やがて事態を悪くしてしまう。そんな人生の皮肉と悲しみの物語が、老人の介護、夫婦の不和、信仰心、裕福と貧困といった、いつかどこかで誰もが向かい合うモチーフを折り込みながら展開していく。

恐るべし、ファルファディ。

ついでに言うと、この「別離」、ベルリン映画祭で金熊賞を受賞しているが、男性キャスト全員が男優賞、女性キャスト全員が女優賞を受賞している。こんなこと、映画史上初めての快挙じゃないかな。しかも、この作品、イランとは天敵の国イスラエルで大ヒットしたんだってさ。国境も、宗教も、民族も超えた作品ってことでもあるね。

良かったです。最後、泣いたなあ。。。




by naomemo | 2012-05-24 16:07 | シネマパラダイス

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昼はハリウッドのスタントドライバー。そして夜は強盗の逃走を請け負うドライバー。昼と夜が「ドライブ」という行為でリンクしている。どちらにも感情が入る余地はないように見える。

そのクールで孤独な男を演じているのは、ライアン・ゴズリングというカナダ出身の俳優。カッコいいのだ、こいつが。

けれど、なぜかいつも口に楊枝をくわえている。どういう暗示だろう?と思いつつスクリーンを見つめていて浮かんだイメージは、「木枯し紋次郎」。「あっしには関わりのねえこって」などとは言わないけれど、そんな雰囲気を醸し出しつつ、やはり関わって行くんだよ。ひょっとしたら監督が熱烈な紋次郎ファンなのかも知れない。

つまり、クールで孤独な魂が、あることをきっかけに変貌することになるわけだ。ライアン・ゴズリング演じるドライバーの場合、それは同じアパートに済む母子との出会いだった。

クールで孤独な魂は少しづつ発熱していく。

孤独な魂が孤独であるうちは保たれていたバランスが、その出会いを契機にゆっくり崩れ始める。いつのまにか口の楊枝も消える。そして昼の重力が増すごとに、夜の重力も増して来る。深いね。脚本のチカラを感じる。

やがて彼女の夫が刑務所から出所してくる。その夫の背後には、大きな闇が広がっている。闇は次第に成長し、孤独なドライバーを飲み込んで行く。

激しい暴力のシーンがある。たっぷりと血が流れる。

若く美しい母親役を演じているのはキャリー・マリガン。「17歳の肖像」から観ているけれど、だんだんチャーミングになって行くね、彼女は。あ、違うな、「プライドと偏見」にも出演してたようなので、その時から観てることになる。

監督はデンマーク生まれのニコラス・ウィンディング・レフン。ライアン・ゴズリングとキャリー・マリガンがお気に入りになったようで、それぞれを起用した新作の準備に取りかかっているらしい。楽しみだ。

ドライヴの予告編はこちら。




by naomemo | 2012-04-10 17:19 | シネマパラダイス

いま観たい映画5+1


「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」


「リトルダンサー」「めぐりあう時間たち」「愛を読むひと」。スティーブン・ダルドリー監督作品にはハズレがない。その緻密な演出力は素晴らしい。必見!と思っていたのに、あらま、ロードショウは終わってしまってるようだ。名画座に廻るのを待って、これは必ず観る。


「別離」


ベルリン映画祭で金熊賞を受賞したイラン映画。今年の米国アカデミー賞外国語映画賞も受賞した。米国ともイスラエルとも犬猿の仲であるイランの映画をよくハリウッドが選んだものだ。一人で製作、脚本、監督の三役をこなしているのが、アスガー・ファルハディ。先日その存在を知って、前作「彼女が消えた浜辺」を観て来た。きっと「別離」も切ない物語だろうなあ。でも、観る。だからこそ、観る。米国アカデミー賞にあまり重きは置いていないけれど、外国語映画賞だけは例外。いい、これは。ちなみに、この作品、イスラエルでヒットしているらしい。


「裏切りのサーカス」


ティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマン、スパイ。なにしろジョン・ル・カレの傑作スパイ小説の映画化なのである。しかも、あろうことか、あのゲイリー・オールドマンが主人公スマイリー役なのだ。コリン・ファースも出演している。観ないわけに行かないだろう。


「ルート・アイリッシュ」


必ず観ることにしているケン・ローチの最新作である。脚本はいつもの通りポール・ラヴァティ。それにしても、この作品は、これまでの彼らの作品と比べて、ずいぶん異色である。「真のイラク戦争終結は、すべての戦争請負業者たちが、あの地から去ってはじめてなされると我々は信じている」。


「ドライブ」


なんだろう、これ。あちこちの映画館で何度か予告編を観てから、妙に気になっている。カンヌ映画祭で監督賞を受賞しているようだけど、この手のクライム・サスペンスがカンヌで受賞するのも珍しい。そうでもないか、タケシが受賞してるもんね。主演のライアン・コズリングがクールだ。そして「17歳の肖像」「わたしを離さないで」のキャリー・マリガン、ずいぶん大人になった感じ。監督ニコラス・ウィンディング・レフンは1970年デンマーク生まれだそうだけど、全く知らなかった。楽しみだ。


「アーティスト」


今年の米国アカデミー賞で主要部門をほぼ独占して話題になった、モノクロのサイレント作品。フランス人監督ミシェル・アザナヴィシウスは、古き良き米国のサイレント映画を観まくったらしい。彼は、授賞スピーチで、「最後に三人にお礼を言いたい。ビリー・ワイルダー、ビリー・ワイルダー、ビリー・ワイルダー」と叫んだ。それで、よし観よう、と思ったのだった。


まだまだあるけど、今日のところは、ここまで。

by naomemo | 2012-03-31 12:25 | シネマパラダイス

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今週の隙間シネマは、渋谷ルシネマで「フラメンコ、フラメンコ」。全編、最初から最後まで、徹頭徹尾フラメンコ、フラメンコ、フラメンコの踊りと歌と演奏一色。こういうの、じつに珍しい。とても贅沢な時間だった。フラメンコが好きじゃない人には、苦痛かも知れないけど。

そして、ひと口にフラメンコと言っても、オーソドックスなの、モダンなの、激しいの、穏やかなの、エロティックなのと、じつにバラエティに富んでいるんだなあと、この作品を通じて教えてもらった感じ。

踊りは基本的に女性の役割、男たちはギターやボンゴのような打楽器を担当。ついでに言うと、フラメンコでは、人間の身体そのものを打楽器として使う。これはもう見事なくらい。

なにより驚いたのは、歌詞。哲学的ともいえる深い物語が歌われているんだよね。いくつもいくつも聴いていて思ったのは、スペインでは、フラメンコの歌を媒介にして、人生が語られ続けられているんだなあということだった。

それにしても、脳化した現代の日本で、実際にフラメンコがブームになってるようだけど、じつに面白い現象だね。身体性への回帰なのかな。アタマはときどき平気で嘘をつくけど、カラダは嘘をつかないからね。




by naomemo | 2012-03-29 19:09 | シネマパラダイス

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人間は嘘をつく生きものである。いや、動物だって、植物だって、擬態という立派な嘘をつくから、生きとし生きるもの、すべて嘘をつく、と言っても良さそうだ。何のために嘘をつくのか?もちろん、生きるために。

生きる目的以外に嘘をつくのは、おそらく人間だけではないだろうか。人間は悪意に満ちた嘘もつけば我が身を守るための嘘もつく。あるいは相手を籠絡するための嘘もつけば人間関係を壊さないための嘘もつく。

人間がつく嘘は、じつにバラエティ豊かである。嘘の役割は果てしなく広いのだ。そして、嘘が嘘のままにきちんと機能しているうちは、おそらく平和が保たれることになるのだろう。逆にいえば、ひとたび嘘が破綻すると、たちどころに大きな波紋がひろがることになる。

イラン映画「彼女が消えた浜辺」は、そうした「嘘の破綻」をテーマにした作品だった。

ほんとうなら幸福な結果を約束してくれるはずだったセピデー(ゴルシフテ・ファラハニ)の小さな嘘が、友人家族たちとヴァカンスにやってきた避暑地の浜辺で、唐突に破綻してしまう。その途端、友人たちは自己保身に走る。私もそうじゃないかと思ってたのよ、と。

セピデーの友人エリが浜辺で消えたことを巡って、セピデーは次第に自分を追い詰めて行くことになる。夫からも友人たちからも追い詰められて行くことになる。詳しいことは書けないけれど、とてもとても切ない物語なのだった。切ない気分でいっぱいになって、渋谷ルシネマを後にした。

それにしてもこの作品に登場する女たちの、なんと魅力的なことか。じつに美しい。それだけでも一見の価値あり。

ちなみに監督アスガー・ファルハディは本作でベルリン映画祭銀熊賞を受賞。来月公開される次回作の「別離」では、ベルリン映画祭金熊賞、今年の米アカデミー賞外国語映画賞を受賞している。注目の監督だね。




by naomemo | 2012-03-23 17:56 | シネマパラダイス