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悲しい物語だった

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ゴミ屋敷老人の存在がマスコミを賑わしたことがあった。なんだろう、これは?と、あれこれ思いながらニュースを眺めることがしばしばだった。だから橋本治が、ゴミ屋敷老人を扱った小説を書いたと知って、さっそく入手した。それが三年前のことだ。

ところが年末に名古屋に帰省した矢先、読みかけの本ともどもバッグごと強奪された。パソコンも、着替えの洋服も、なにもかも。そんな経緯もあって、なかなか買い直す気分にもなれず、いたずらに時が過ぎた。

先日文庫化されたことを知って、ようやく買い直す気分になった。ゆるゆる、ゆるゆる、ゆるゆると読み進んだ。結末にいたって、じつに悲しい気持ちになった。

ゴミ屋敷老人の一生を通して、彼の身体を通して、戦後の日本が描かれていると云えばよいだろうか。私自身も生きて来た時代が、たしかにそこにあって、少しザラついた手触りとともに思い出された。このひとの時代感覚は、ちょっと特別だね。傑作だと思う。

それにしても、その昔、東大駒場祭のポスターで「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男 東大 どこへ行く」とやった男が、ここまでの高みと深みを獲得するまでになったのか、という感慨しきり。

by naomemo | 2012-12-06 14:46 | 音楽から落語まで