瞳の奥にはどんな秘密があるのか

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先週、水曜日の夜、シネセゾン渋谷で、アルゼンチン映画「瞳の奥の秘密」を観た。じつにセンスのいい大人の映画で、エンターテイメントとしても見応えがあった。深々とした物語の最終ページともいうべきエンドロールが流れ始めたとき、思わず係の人を呼んで、「すみませ~ん、もう一度フィルムを回して貰えませんか~」と大きな声で頼んでしまった。もちろん口には出さなかったが、心のなかで、そう叫んでいた。そんな気分になることは、そうそう滅多にあることじゃない。

まず冒頭の、はかなく美しい吐息のようなカメラワークに酔った。やがてペンの音が聞こえる。初老の男がノートになにやら書き付けては破いている。同じことを、何度も、何度も、繰り返している。そのうちにこの男は、長年勤めた刑事裁判所を定年退職し、家族のいない孤独と、退屈な庭いじりに倦怠し、25年前に封印された、いったんは解決をみたはずの事件を素材に、小説を書こうとしていることが分かってくる。

いつしか映画で進行する物語と、彼が書いている小説の物語が溶け合い、映画という魔法のタイムマシンに乗って、現在と25年前を行ったり来たりする。そして観客も少しずつ真相に迫っていく。このあたり、じつによく出来たエンターテイメントである。あー、でも、これ以上は、書けません。ミステリー仕立てというか、刑事モノというか検事モノ的なストーリーでもあるので、お楽しみを奪ってはいけないからね。

でも、これだけでは何がどう面白いのか分からないよね。「瞳の奥の秘密」がどんな映画かと言えば…、そうだなあ…、もしも、レイモンド・チャンドラーがアルゼンチンのブエノスアイレスで生まれ育って「長いお別れ」みたいな物語を書いたとしたら、こんな大人の純愛物語になったかも知れないなあ、と。脚本家も監督も、おそらくチャンドラーのファンに違いなし。ヒッチコックのファンでもあるだろう。ただし、これはアルゼンチンの映画なので、英国的なシニカルさは有りません。じつに曖昧模糊とした言い方で申し訳ないけれど、これでビビッと来た人は、ぜひご覧くださいな。

ちなみに、この「瞳の奥の秘密」は、「人がそれぞれ内に秘めた変わらない情熱」というくらいの意味かな。人間の情熱は、美しくもあり、悲しくもあり、怖くもあるんだけどね。

登場人物は以下の通り。この映画の主人公であり小説の書き手である、元裁判所勤務のペンハミン・エスポシスト(リカルド・ダリン)、主人公の元上司(元判事補・現検事)のイレーネイレーネ・ネネンデス・ヘイスティングス(ソレダ・ビジャミル)、主人公の同僚でアル中のパブロ・サンドバル(ギレルモ・フランチェラ)、真面目な銀行員リカルド・モラレス(パブロ・ラゴ)、殺害されたモラレスの新妻リリアナ・コロト、リリアナと同郷のイシドロ・ゴメス(ハビエル・ゴディーノ)。まったく初見の俳優ばかりだけれど、いずれ劣らぬ名優ぞろい。脚本・監督ファン・ホセ・カンパネラにも注目ですね。



by naomemo | 2010-10-28 20:45 | シネマパラダイス