ジャームッシュの脳の中へ。

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以前、「難物だった」と書いて放っぽりだした、ジャームッシュの新作「リミッツ・オブ・コントロール」だけど、シーンが展開していく度に「?」を抱え込んでいくことになった。まるで哲学的な「なぞなぞ」を、いくつも仕掛けられているような気分だった。ここまでワガママやるもんかなあって思いつつ、でも、しばらくフローの状態にしておいたら、なんとなく解けてきた感じ。

ストーリーの骨格そのものは、じつはシンプル。「孤独な男」と呼ばれる殺し屋が、ある組織から、クレオール人、フランス人というコードネームを持つ二人組を通じて、「自分こそ偉大だと思う男を墓場へ送れ」という使命を受け取り、スペインに渡る。行く先々で、ヌード、ブロンド、分子、ヴァイオリン、ギター、メキシコ人、ドライバーといったコードネームを持つ仲間から暗号を受け取り、目的地を目指す。なんだか、螺旋状に動いてるだけのようにも見えるんだけど、ね。

しかし、どうなるんだろうという杞憂をよそに、ついに殺すべき相手のアジトに到達する。そしていともたやすく潜入し、目的を果たす。敵が誰だったのかちゃんと分るし、その敵を倒すことが何を意味するかも明らかにされる。911後が描かれていることも伝わってくる。ストーリーとしては、それだけのことなんだけど、とても奇妙な時間が流れているから、なにやらモヤモヤしちゃうんだよね。

たとえば殺し屋は、間の抜けたゴルゴ13みたいだし。お互いを知らない仲間と落ち合う目印が、テーブルの上に置かれるシングルのエスプレッソ2杯だったりするし。それだけじゃなく、お互いの本人確認はダブルチェックになっていて、「スペイン語は話せるか?」「いいや」っていう、妙な合い言葉になってるし。仲間が「孤独な男」に語る言葉に、なにか秘密があるのかと思って聞いていいると、どうもそうでもないらしい。暗号は、マッチ箱に入った紙片に書かれているだけなのだ。

そのうち、ストーリーの流れとほとんど無関係に展開される「孤独な男」とコードネームを持つ仲間たちと交流シーンは、ジャームッシュから愛する俳優ひとりひとりへのオマージュに違いないと気づく。そしてそれぞれのシーンに、つながりがあるような、ないような、ふわふわした感じがするのは、すべてジャームッシュの脳の中の出来事だからなんだと気づく。アジトのコンクリートの堅牢な壁を、誰にも気づかれることなくスルリと抜けられるのも、脳の中のことだからなんだよね、たぶん。

とにもかくにも、ジャームッシュと俳優の間に親密な空気が流れている映画であり、スペインの風景をゆっくり楽しむ映画であり、ジャームッシュの好きな音楽を楽しむ映画であり、それぞれの俳優の空気を楽しむ映画でもある。ジャームッシュの脳の中へ、ようこそ、だね。個人的には白装束の「ブロンド」の姿が目を引いたし、フラメンコ・ダンサーの魔法のような手の動きに酔えた。ひょっとして、これは俳優たちへの遺書なんだろうか。そんな思いさえよぎってきた。



by naomemo | 2009-12-11 09:10 | シネマパラダイス