ずっしり堪えた、ポン・ジュノ「母なる証明」

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中年の女性がひとり、遠くから枯れ野を歩いてくる。笑っているようにも見えるし、深い闇のような悲しみを抱えているように見える。やがてゆっくり身体を揺らして踊り始める。いつしかタンゴ音楽が流れ始めている。これ、友人に薦められて先週末に観た韓国映画「母なる証明」(原題:MOTHER)の冒頭シーンである。なんだか奇妙な幕開けでしょ。

ある日、すこし頭のよわい一人息子が少女殺しの容疑者として逮捕される。息子がまだ幼い頃に夫を亡くした彼女は、女手ひとつで息子を育ててきた。そんな彼女にとって息子は溺愛の対象だったに違いない。息子にかぎって、そんな残忍なことをするはずはない、濡れ衣に決まってるじゃないの。怠惰な警察も弁護士も、頼りにはならない。ひょっとしたら、真犯人探しの障害にさえなりかねない。母は、息子の友人のチカラを借りて、真犯人探しに奔走することになる。なんだか分かるよね、こういうの。

やがて、殺された少女の素顔があらわになり、息子の幼い頃の記憶がよみがえり、ある目撃者との出会いがありと、物語は思わぬ展開を見せることになるのだけれど、この映画は、サスペンスの手法を踏襲しつつも、かならずしも「犯人探し」そのものが眼目ではない。これは、犯人探し=真実の追求がついには悲劇につながっていくという物語なのだ。しかもその悲劇は、母なるものが宿命的に持つ二面性=慈愛と自己中心性が、みずから引き寄せたものであるという滑稽さも併せ持っているのだ。

観終わった後、自らの出生の秘密を探し求めるギリシャの若き王の物語が浮かび、この「真実」を追い求める母の姿に重なってきた。血の呪縛が、「真実」を性急に追い求める行為そのものが、ついに悲劇を招いてしまうところまで、じつによく似ている。

原案、脚本、監督、ポン・ジュノ。この人、おそらく確信犯だと思う。母親役に、韓国の母と呼ばれているキム・ヘジャ。なんだか吉行和子さんに似てるんだよなあ、このひと。声質までそっくりなんだから。息子トジュン役にウォンピン。韓国の四天王の一人らしいけど、私はトジュンの悪友役のチン・グが気に入りました。それにしても、ずっしりと堪えました。エンドロールが終わるまで、しばらく席から立ち上がれませんでした。

読み返したわけじゃないし、勝手な思い込みかも知れないのだけれど、さきほど紹介したギリシャの若き王の物語とは、上に掲載したソポクレスの「オイディプス王」(岩波文庫)。興味がある向きは、映画の後にでも読んでみてください。「母の呪縛」の物語として読み直したら、面白いかも知れない。



by naomemo | 2009-11-06 08:02 | シネマパラダイス