キャデラック・レコード雑感

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昨日に引き続いて、ハリウッドつながりで一本。ちょっと前になるんだけど、恵比寿ガーデンシネマで「キャデラック・レコード」を観た。主演はエイドリアン・ブロディ。彼の出演作品を観るのは5作目になる。「戦場のピアニスト」「ヴィレッジ」「ジャケット」「ダージリン急行」、そして「キャデラック・レコード」。なんとなく気になる俳優なんだよね。

さて、エイドリアン・ブロディ扮するレナード・チェスは、実在の人物で、ポーランドからのユダヤ系移民である。チェスの出自に言及されるのは冒頭のワンシーンだけなのだが、おそらく相当な差別の中で成長したのだろうと思わせる。そしてそのことが、後年、音楽ビジネスに邁進する原動力になったように見える。少なくとも、この映画ではそのように暗示されている。

少し寄り道をする。そのレナード・チェス役だが、当初はアイルランド系アメリカ人のマット・ディロンが当てられていたようだ。しかし、理由は定かではないが、降板して、エイドリアン・ブロディに白羽の矢が立ったという。ちょっと出来過ぎの感もあるが、彼自身、ポーランド系ユダヤ人の血を引いていることと無縁ではないだろう。なにしろハリウッドはユダヤ移民が作った街なんだから。いずれにしても、「戦場のピアニスト」といい、今回の「キャデラック・レコード」といい、ポーランド系ユダヤ人といえばエイドリアン・ブロディと相場が決まったかのようだ。

肝心の映画の内容をひとことで言えば、シカゴ・ブルース全盛を作った伝説のレーベル「チェス・レコード」の誕生から衰退までを描いた作品である。タイトルが「キャデラック・レコード」となっているのは、ヒットが出ると、その歌手に豪華なキャデラックが与えられたから。つまり、この映画は、キャデラックという米国を象徴する自動車が光り輝いていた頃の物語でもあるのだ。

チェス・レコードは、チェス兄弟(映画ではレナード・チェスひとりに集約されているが)が、1950年に立ち上げたレーベルである。アフリカ系の黒人たちと契約して、以後20年間にわたってレーベルを発展させた。被差別民族という共通点があったためか、チェス兄弟には黒人への差別意識はきわめて薄かったようだ。というより、まずビジネスありきにとって、差別意識など邪魔ものだったに違いない。

このことはジャズの名門レーベルであるブルーノートの創立者アルフレッド・ライオンがドイツからの移民で、やはり人種差別感情から遠かったことに似ている。ま、そもそも米国は移民の国だったんだけどさ。

かたや、まず商売ありきのレナード・チェスとフィル・チェス兄弟のチェス・レコード。かたや、アメリカ文化とジャズへの憧れが根底にあるアルフレッド・ライオンとフランシス・ウルフによるブルー・ノート。双方ともレコード史では重要な役割を果たしたが、紆余曲折を経て最終的に残っているのはブルー・ノートの方だ。いまでも往年のジャズの定番として存在しているんだけど、でも、映画になったのは、チェスの方でした。

ずいぶん脱線してしまったが、この映画、ブルース・シンガーたちが放つ熱いオーラと、経営者レナード・チェスが放つ冷たいオーラの対比が際立っていて面白かった。エイドリアン・ブロディの虚空を見つめているような眼が、なんともいえないね。

レナード・チェスにエイドリアン・ブロディ。チェス・レコードの初期を支えたブルースの帝王マディ・ウォータースにジェフリー・ライト、この人ブロークン・フラワーズでもいい味を出していたっけ。エタ・ジェイムスにビヨンセ・ノワルズ。チャック・ベリーにモス・デフ。そしてチェス・レコードの後期を支えたハウリン・ウルフにイーモン・ウォーカー、この役者、救命救急室ERにも何回か出演していたらしいけど、もの凄いド迫力。そのうちに大役をしとめるかも知れないな。脚本、監督にダーネル・マティン。どういう人だか知らない。そして製作総指揮にビヨンセが名を連ねている。



by naomemo | 2009-10-29 08:27 | シネマパラダイス